本研究では、分子振動の励起子と光子の強結合状態を利用して、結晶化を含む自己集合の制御を目的としている。 セレン化亜鉛板の上に金を蒸着することで、反射ミラーを作製した。2枚の反射ミラーを向かい合わせ、その間にスペーサーとしてマイラーフィルムを挟んだ。マイラーフィルムの隙間に液体を導入できる構成とすることで、反射ミラーで液体を挟む仕様とした。ミラー一式は金属の冶具の中に挿入し、ネジで金属容器を締めることによって、2枚のミラーを圧着する。ネジの締め具合によって、共振中心波数を操作できる仕様とした。これを溶液セルとして用いた。 金属イオンと有機配位子を含む水溶液を、溶液セルの中に導入した後、赤外吸収スペクトルの測定を行った。溶媒である水分子のOH振動と共振器の周波数のエネルギー準位が一致した時に、OH振動の励起子と光子の混成状態であるポラリトンのエネルギー分裂が観測された。エネルギー分裂が観測された状態で、静置すると、金属イオンと有機配位子が錯形成し、結晶が得られた。得られた結晶は、(共振器外で)通常得られる結晶と異なる形状をしており、強結合が結晶化に影響を与えることが示唆された。共振器とOH振動の強結合が、金属イオンや有機配位子の水和に影響を与えたため、結晶化の過程に変化が生じたと推察される。得られた結晶の同定および成長機構の解明を行い、エネルギー準位の分裂が自己集合に与える影響について検証する。
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