安価かつ豊富な資源量を背景に強発光性Cu(I)錯体は、Pt(II)、Ir(III)イオンを有する発光性貴金属錯体を代替する次世代発光性材料として、近年注目を集めている。しかし、Cu(I)イオンは配位子置換活性であり、溶液状態の不安定さが仇となって有機エレクトロルミネッセンス(EL)デバイスへの適用が困難とされてきた。本研究では、この問題を打破すべく、不安定な溶液状態を経ること無く発光層の成膜が可能となる「新規固相合成法の開発」を目指した。 Cu(I)イオンが配位子置換活性であることを利用し、原料となる金属塩(ヨウ化銅(I)など)と有機配位子を、微量の補助溶媒を添加して乳鉢等で磨砕混合する「溶媒補助固相合成法」は、非常に有望であることは研究開始当初から判明していたが、この手法は微量の補助溶媒に加えて、合成後に未反応原料を取り除く洗浄操作に大量の有機溶媒を必要とする問題点があった。 そこで本研究では反応から洗浄に至る全工程を無溶媒条件で進行させるべく、発光性Cu(I)配位高分子の固相加熱合成を検討した。融点が室温以下の有機配位子を用いた場合には、室温下磨砕混合するだけで目的とする配位高分子が生成し、融点が室温以上のものでも、加熱により融解させることで、効率よく生成することがわかった。注目すべきは、目的物を分解させない程度の温度で焼成することで、余剰の有機配位子を取り除くことが可能だった点である。用いる有機配位子を変更して熱耐久性に優れた配位高分子を合成すれば、従来の溶液反応によって合成したものに劣らない発光強度、発光量子収率を示すものも合成できることが確認された。これらの成果は、強発光性Cu(I)錯体に対して固相加熱合成法を用いることで、環境負荷の大きな有機溶媒を使うことなく合成から精製まで実施可能であることを立証したものであり、実用化に向けて大きな進展できたと言えよう。
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