研究課題/領域番号 |
18K19092
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小澤 岳昌 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40302806)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | アップコンバージョン / ナノ粒子 / 光操作 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
コート分子によるアップコンバージョンナノ粒子の生体内分布動態への影響を確認するため,アップコンバージョンナノ粒子をポリエチレンイミンで修飾したナノ粒子 (UCNP),およびさらにグリチルレチン酸で修飾したナノ粒子 (GA-UCNP)を作成した.作成したナノ粒子を実験用マウス(BALB/cCrSlc 10週齢♀,約18g)に尾静脈注射し,数時間おきにマウス肝臓,および肺を摘出し,観察用切片を作成した.976 nmレーザー光励起による440 nm付近の蛍光像を確認したところ, GA-UCNPでは肝臓のみに蓄積が確認され,肺には蓄積しないことが明らかとなった.また,GA-UCNPは注射後24時間安定に肝臓に蓄積していた.次に,アップコンバージョンナノ粒子の肝臓内分布を詳細に確認するため,GA-UCNPをさらに有機蛍光色素Cy5で修飾した.Cy5による蛍光をもとに共焦点顕微鏡で深部観察を実施したところ,表面から深さ約3.5mmまで肝臓内のアップコンバージョンナノ粒子分布像を取得することに成功した.取得した像を三次元構築したところ,肝臓全体にドット状に蓄積していることが確認された.また,核染色像の三次元構築により得られる血管構造と比較したところ,ナノ粒子の分布像は血管構造と相関がないことが明らかとなり,尾静脈注射による導入で肝臓全体に一様にナノ粒子を導入可能であることを実証した.また光操作膜タンパク質を発現するため,アデノウィルスを作成し,マウス肝臓での発現確認を行った.Western blotにより肝臓組織にリセプターが発現していることが確認できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に予定していた「アップコンバージョンLNPの表面修飾と光操作ツールの開発」は,概ね予定通りの成果を得られている.特に光操作タンパク質であるCRY2が,LNPの近赤外光照射により動作することが培養細胞レベルで確認することができたこと,さらに近赤外光ファイバーレーザーシステムにより光操作ツールが駆動できることが解った.また,LNPの肝臓へのターゲッティングについて,表面を特異的化合物で修飾することで,肝臓特異的に長時間滞留させることが可能となっており,当初の計画通り順調に進んでいる.光操作ツールのマウス肝臓への発現は,ウィルスを数種類作成することで,発現を効率良く行えるデータが得られつつある.マウス個体で光操作を行うための基本的な準備が整っており,概ね順調に進行していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,肝臓の特異的膜リセプターを外部光により時間的・空間的に制御できることを実証する.マウスに光操作ツールを発現するアデノウィルスを導入して,肝臓での発現を検証している.また表面修飾をしたLNPをマウスの尾静脈から注入し,肝臓に滞留させる技術もこれまでに確立している.マウスの腹側から局所的に近赤外光を照射し,CRY2の構造変化を惹起させ,光操作ツールを細胞膜上で活性化または不活化できることを実証する.そして,まくりセプターの光操作により,肝細胞内シグナルならびに代謝経路が活性化することを定量的に評価する.最終的には,マウス肝臓深部での近赤外光による光操作が実現可能であることを立証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
マウス肝臓での光操作による細胞内シグナルの解析には,ステージインキュベーターをセットした顕微鏡を必要とする.温度安定性がシグナル解析には重要な要素であったが,インキュベーターの故障により実験が滞った.現在は,新たなステージインキュベータを購入し,マウス肝臓の光操作実験が滞りなく進めることが可能となっている.次年度の繰越額は全て,マウス肝臓細胞のシグナル解析に必要な消耗品として利用する.
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