研究課題/領域番号 |
18K19092
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小澤 岳昌 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (40302806)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | アップコンバージョン / ナノ粒子 / 光操作 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
本年度は,アデノウイルスによる導入方法を検討した.プロモーター領域とともに光操作膜タンパク質をコードする遺伝子をアデノウイルス発現ベクターに移し替え,ヒト由来HEK293細胞に遺伝子導入した.小スケールから遺伝子導入した細胞の培養を開始し,すべての細胞で細胞変性効果が確認された時点で回収した細胞破砕液を一段階上のスケールで培養した細胞に添加することを繰り返し,十分量のウイルス含有溶液を得た.ウイルスを精製したところ,1011 VP/mLスケールでウイルスを得ることに成功した.精製したウイルス溶液を培養細胞に添加し共焦点蛍光顕微鏡で観察したところ,光操作膜タンパク質の発現が確認された.ウイルス溶液を尾静脈注射でマウスに導入し,数日後に肝臓断片を回収・破砕することで作成したサンプルをWestern blottingで解析したところ,光操作膜タンパク質の発現が確認された.また,アデノウイルスで遺伝子導入した肝臓から凍結切片を作成し,共焦点蛍光顕微鏡で光操作膜タンパク質の発現分布を確認した.結果,局所的に光操作膜タンパク質を発現した細胞群が肝臓全体にわたって散在する様子が確認された.次に,光操作膜タンパク質をアデノウイルスで導入したマウスについて,麻酔下で開腹し露出した肝臓表面に青色LED光を一定時間照射し,肝臓の破砕サンプルを調製した.サンプルをWestern blottingで解析したところ,光照射に伴う光操作膜タンパク質の活性化,および下流分子のリン酸化が確認された.以上より,アデノウイルスを用いることで,肝臓に光操作膜タンパク質を発現させ,外部光により内在のシグナル伝達経路を活性化可能であることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時に予定していた「アップコンバージョンLNPの表面修飾と光操作ツールの開発」は,概ね予定通りの成果を得られている.特に培養細胞を用いた実験系において,LNPの近赤外光照射により光操作ツールが青色光刺激と同程度に動作することが確認できている.また,LNPの肝臓へのターゲッティングについて,表面を特異的化合物で修飾することで,肝臓特異的に長時間滞留させることが可能となっており,当初の計画通り順調に進んでいる.さらに光操作ツールを効率的に高発現するウィルスを作成することができたことは実験の効率化に繋がっている.さらにトランスジェニックマウスの作成もできつつあり今後の実験の加速が期待できる.
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今後の研究の推進方策 |
実験の過程で光操作膜タンパク質の肝臓発現量が尾静脈注射するウイルス溶液量に依存することが判明し,安定した実験結果を得ることが今後困難になることが想定される.そこで並行して,光操作膜タンパク質を発現するトランスジェニックマウスを樹立してきた.予備実験においては,予想に反してタモキシフェン誘導なしでも光操作膜タンパク質が発現していることを示唆する結果が得られた.今後は光操作膜タンパク質の発現をより正確に解析するとともに,青色LED光による光操作膜タンパク質の活性化も試行する予定である.一方で,LNPを活用した光操作膜タンパク質の近赤外光による駆動の検証実験として, 光操作膜タンパク質を導入した細胞をLNPを塗布したスライドガラスに載せ,近赤外光 (808 nm) 照射による青色のアップコンバージョン光で活性化可能か検討した.結果,近赤外光照射に伴う光操作膜タンパク質の自己リン酸化反応は確認されたものの,下流分子の一部は活性化されないことが判明した.下流分子が活性化される光照射条件の最適化を実施する予定である.また,本年度はこれまでLNPを提供していただいていたシンガポール南洋理工大学のBengang研究室からLNP合成の技術移転を進め,近赤外光照射に伴い青色,および緑色のアップコンバージョン光を発する粒子の作成に成功している.今後は当研究室で合成したLNPも用いて実験を進め研究を加速させる予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの影響により動物実験に遅延が生じた.翌年度分と合わせ,動物実験に必要な試薬や消耗品に使用する.
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