ニッケルヒドロコルフィノイド補因子F430を含むメチル補酵素Mレダクターゼ(MCR)は、嫌気性条件下での生物学的メタン生成に関与していることが知られている。本研究では、人工補因子であるニッケル一価テトラデヒドロコリン(Ni(I)(TDHC))を含む再構成ミオグロビンを、MCRのタンパク質の機能モデルとして用いた。再構成タンパク質rMb(Ni(I)(TDHC))は、メチルp-トルエンスルホン酸塩やヨウ化トリメチルスルホニウムなどのメチル供与体と反応し、ジチオナイトを含む水溶液中でメタンの発生が認められた。さらに、rMb(Ni(I)(TDHC))は、臭化ベンジル誘導体のホモカップリング生成物を与えず、還元的に脱臭素化された生成物に変換することが明らかとなった。反応性は、一級>二級>三級ベンジル炭素の順で、初期段階でのニッケル中心とベンジル炭素との反応に対する立体効果を示した。さらに、一連のパラ置換臭化ベンジルを使用したハメットプロットは、極性置換基定数に対する正の傾きで示され、電子求引性置換基の導入による反応性の向上を示した。これらの結果は、Ni(I)種とベンジル炭素との求核性SN2型反応が、中間体として有機ニッケル種を提供することを示唆している。 pD 7.0での重水バッファーでの反応により、生成物の同位体シフトが+1質量単位で検出され、生成物の形成中に有機ニッケル中間体のプロトン化が発生するという提案が裏付けられた。副反応による補因子の不活性化によりターンオーバー数は制限されるが、今回の結果は、活性化メチル源からのMCR触媒によるメタン生成と脱ハロゲン化の反応機構の解明に貢献している。
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