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2018 年度 実施状況報告書

レドックス活性錯体のシングルサイト触媒化による高効率なメタノールの光脱水素化

研究課題

研究課題/領域番号 18K19101
研究機関中央大学

研究代表者

張 浩徹  中央大学, 理工学部, 教授 (60335198)

研究分担者 松本 剛  中央大学, 理工学部, 助教 (40564109)
研究期間 (年度) 2018-06-29 – 2020-03-31
キーワードアルコール / 脱水素 / 光反応 / 鉄錯体 / 軸配位子 / 低スピン / 高スピン
研究実績の概要

水素貯蔵材料として、常温常圧で液体であるメタノールが注目されている。我々は、o-アミノフェノール(apH2)およびtrans-[Fe(apH)2(MeOH)2](1)がMeOHの脱水素化反応を触媒的に推進することを報告している(Nat. Commun., 2016)。一方、光反応中にapHの脱離と分解が副反応として進行することが実験的に示唆されているが、これは錯体1中の高スピン型Fe(II)の置換活性が影響していると考えられる。そこで本研究では、触媒の安定性並びに活性向上を目的に、強配位子場を与え得る補助配位子を用いた電子状態制御と光反応性に及ぼす効果について検討した。
常磁性錯体種である錯体1に対しそれぞれ二当量のNBu3, PEt3およびDMAPを添加した結果、MeOH-d4中での1H NMRスペクトルにおいて、補助配位子添加前には見られないブロードな芳香族プロトン由来のシグナルが現れた。一方、それぞれ二当量のtBuNCおよびAdNCを添加した錯体種においては、より先鋭化されたシグナルが確認され、反磁性錯体種の形成が示唆された。また、それぞれの錯体種のMeOH溶液への光照射 (ex = 289 ± 10 nm)によりそれぞれ1.1, 1.1, 0.8, 0.3, 1.3, および0.3当量の水素が発生し、発生量に差異が見られた。これらの結果は、補助配位子のドナー性の違いにより錯体の電子状態に影響を及ぼしていることを示し、補助配位子効果を考慮した錯体種の設計により触媒の活性および安定性を制御可能であることを示唆する結果である。最後に本研究では不溶性の無機単体への担持も指向している。そこで多様な細孔構造と触媒特性を発現することが知られているアルミノケイ酸塩およびアルミノフォスフィノケイ酸塩類の合成環境の設置と合成および不均一系触媒活性能を評価するための装置を設置した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究は、我々が見いだした光レドックス活性錯体触媒(PRC)を用いたMeOHの光脱水素化を実現すべく、まず均一系において分子内パラメーターを最適化した後に、PRCの無機固体への固定化により高活性触媒を得ようとする研究である。当該年度にはこの目的に沿い、まずPRC内の1)金属種依存性については検討を行った結果、Mg(II), Mn(II), Fe(II), Co(II), Zn(II)錯体のすべてにおいて同様のMeOHの光脱水素化特性を確認できた。また、Mg(II), Mn(II)において特に高い活性があることを見いだす共に、これにより金属依存性が存在することを確認した。s及びdブロック金属のd電子数に応じた活性特性が見いだされたことは複数の制御因子の存在を示唆する。続いて、アミノフェノラート上の2)置換基効果を明らかにした。Fe(II)及びMn(II)錯体において検討した結果、電子供与性のt-Bu基の導入により活性が向上すること、一方Cl基の導入により活性が著しく減少することを見いだした。最後に3)金属中心のスピン状態の効果を明らかにすべくNBu3, PEt3およびDMAP及びシアナミド配位子を利用した研究を遂行し、軸配位子の配位子場強度の増強により低スピン化が進行し、触媒活性能が向上することを見いだした。これは低スピン化による配位子交換の抑制効果の表れと考える。
以上の均一系における金属及び置換基効果に関する知見を踏まえ不均一系へと展開すべく、無機担体の合成も遂行した。対象となるSAPO34や、ゼオライトL, W等の合成に成功すると共に、PRCを担持した不均一系触媒評価装置も立ち上げた。
以上の成果から本研究は概ね順調に進行していると考える。

今後の研究の推進方策

HCHOは130℃以上ではMeOHとの付加体を生成せず分離側に反応が進行する。そのため、本研究では本PRCを中低温でのMTF反応に応用すべく、シリカやMCM表面のターミナル酸素、または担体への異種金属のドーピングにより固定化する。担体としては、(i)光透過性、(ii)熱的・機械的安定性、(iii)高い表面積、(iv)化学的安定性、(v)経済性に加え(vi)PRCの固定に必要な十分な量の固定化サイトが求められるため、メソポーラス担体を中心に最適化する。またHCHOの過剰酸化を化学因子の最適化により抑制しつつ、最適な担持法を探索する。現有するSEM, TEM, XPS等により固定化PRCの周期及び局所構造を、またIR, TG-DTAや各種温度依存分光法により局所構造を評価する。
本研究では、現状UV光により進行するMTF反応を可視光駆動化すべく、担体を光増感部位とした効果的PRC活性化法を開発する。即ち、可視光も含む光の利用により光増感性担体を励起し、続くPRCへの電子移動により、効果的にπσ*(N-H)励起状態(=水素ラジカル発生パス)へと誘導する。このような光増感性担体からPRCへの電子移動の実現には、担体のバンドギャップ及び伝導帯レベルとPRCの励起状態準位の相対関係が肝となる。そのため、通常の担体としての役割を担いつつ、優れた光増感特性を持つ担体を見出す。

次年度使用額が生じた理由

予定した試薬及び硝子器具類については効果的な合成法を見いだせたことに加え、少量の試料量にて実験を行える工夫を施したため、当初の計画より物品費を少額にすることができた。また旅費については、研究打ち合わせをメールで効果的に行うことができたため、予定額未満にできたため。

  • 研究成果

    (12件)

すべて 2019 2018

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (10件)

  • [雑誌論文] The Impact of Group‐10 Metals on the Solvent‐induced Disproportionation of o‐Semiquinonato Complexes2019

    • 著者名/発表者名
      Shota Yamada Takeshi Matsumoto Ho-Chol Chang
    • 雑誌名

      Chemistry A European Journal

      巻: in press ページ: in press

    • DOI

      10.1002/chem.201900172

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Direct Photochemical C-H Carboxylation of Aromatic Diamines with CO2 under Electron-Donor- and Base-free Conditions2018

    • 著者名/発表者名
      Matsumoto Takeshi、Uchijo Daiki、Koike Takuji、Namiki Ryoya、Chang Ho-Chol
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 8 ページ: 1-10

    • DOI

      10.1038/s41598-018-33060-3

    • 査読あり
  • [学会発表] Molecular-level Mechanism of External Stimuli-induced Disproportionation of Group 10 Metal Complexes with Semiquinonato2019

    • 著者名/発表者名
      Shota Yamada, Takeshi Matsumoto, Ho-Chol Chang
    • 学会等名
      日本化学会第99春季年会
  • [学会発表] o-アミノフェノラート3d金属錯体が示すメタノールの光脱水素化における補助配位子効2019

    • 著者名/発表者名
      小池 翔太、松本 剛、張 浩徹
    • 学会等名
      日本化学会第99春季年会
  • [学会発表] 二置換芳香族アミン/アルコール/チオール類のCO2下における光化学反応2019

    • 著者名/発表者名
      阿部 叶、小池 翔太、松本 剛、張 浩徹
    • 学会等名
      日本化学会第99春季年会
  • [学会発表] 分子性ケイ素及びアルミニウム錯体を用いたSi/Alリン酸骨格の構築2019

    • 著者名/発表者名
      今泉 暁、松本 剛、張 浩徹
    • 学会等名
      日本化学会第99春季年会
  • [学会発表] 電子吸引基を有する新規o-フェニレンジアミンFe(II)錯体の合成と光反2019

    • 著者名/発表者名
      高橋 良季、秋澤 秀明、松本 剛、張 浩徹
    • 学会等名
      日本化学会第99春季年会
  • [学会発表] Solvent-induced Disproportionation of Group 10 Metal Complexes with o-Semiquinonato2018

    • 著者名/発表者名
      Shota Yamada, Takeshi Matsumoto, Ho-Chol Chang
    • 学会等名
      第68回錯体化学討論会
  • [学会発表] Study on the Solvent-induced Disproportionation of Semiquinonato Complexes with Redox-active ligand2018

    • 著者名/発表者名
      Shota Yamada, Takeshi Matsumoto, Ho-Chol Chang
    • 学会等名
      International Symposium on Nano & Supramolecular Chemistry
  • [学会発表] レドックス活性錯体によるメタノールの光脱水素反応の制御2018

    • 著者名/発表者名
      小池 翔太、松本 剛、張 浩徹
    • 学会等名
      第68回錯体化学討論会
  • [学会発表] Redox-active Ligands as Photo-responsive Electron/Proton Poolers2018

    • 著者名/発表者名
      Ho-Chol Chang
    • 学会等名
      43rd International Conference on Coordination Chemistry
  • [学会発表] CO2 下においてo-フェニレンジアミン鉄(II)錯体が示す光化学的 C-H カルボキシル化反応2018

    • 著者名/発表者名
      松本剛、内城大貴、小池拓司、阿部叶、小池翔太、張浩徹
    • 学会等名
      第30回配位化合物の光化学討論会

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公開日: 2019-12-27  

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