研究課題/領域番号 |
18K19102
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
和田 健彦 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (20220957)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 円偏光二色性 / 時間分解 / 楕円偏光 / 高感度測定 / CDスペクトル / タンパク質 / 核酸 / 高次構造 |
研究実績の概要 |
円二色性(CD)スペクトル測定は、構造変化の動的挙動を高感度で検出可能で重用されてきた。しかし現行CDの時間分解能は原理的にミリ秒程度で、μ秒程度の早い複合体形成検出には本質的な適用限界が指摘されている。このため高感度と高時間分解能を両立可能な新規CD測定原理と測定装置の開発が切望されてきた。本研究では新規楕円偏光制御法に基づく高感度・高時間分解CD測定装置開発に取り組んでいる。 平成30年度の研究では、信頼性の高い、新たな楕円偏光制御法による高感度検出法の開発を目指した。位相板の方位角を導入した新たな理論式を導出し、実測される左右楕円偏光強度Ir、Ilから算出されるシグナル強度Sは、方位角を小さくすることで増大することが示された。シグナル強度Sの増大により、S/Nの向上、すなわち高感度検出が期待できる。実際に位相板の方位角を、従来用いられてきた90度と-90度から、45~1度&-45~-1度と大きく減少させ、シグナル強度Sの変化を詳細に検討したところ、方位角を小さくすることにり、Sが増大することが明らかとなり、S/Nの向上、すなわち高感度検出が実現できることが明らかとなった。この方位角変化に基づく高感度観測法は、従来法に比較して温度揺らぎなどの影響を受け難く、高感度と高い再現性を有する検出システムの構築につながることが期待される。 この成果に基づき、高感度・ 高時間分解CDスペクトル測定装置を活用した生体機能材料開発に取り組んだ。 構築した高感度・高時間分解能を有するCD測定システムを用い、キラルRu錯体により測定条件最適化ならびに市販CD測定装置との性能比較検討により概念実証実験に取り組み、初期的知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では新規楕円偏光制御法に基づく高感度・高時間分解CD測定装置開発に取り組み、理論的再検討に取り組み、位相板の方位角を導入した新たな理論式を導出し、高感度検出の可能性を見出し、新たな高感度測定法構築に向けた仮説を提案した。しかし、技術的問題も含め、本仮説の実証実験には困難が伴うことを予想していた。実際の測定系構築、特に再現性良い方位角制御法の構築は容易ではなく、かなりの時間と労力を要した。しかし、新しい方位角制御プログラムを導入することにより、再現性良く、大きなシグナル強度Sの測定可能なシステム構築に成功し、当初予想・計画以上に進展したと評価される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、構築した高感度・高時間分解能を有するCD測定システムを用い、キラルRu錯体により、測定システムのさらなる測定条件の最適化に取り組む。このように最適化されたシステムを用い、二重鎖DNA(dsDNA)・テトラピリジルポルフィリン誘導体(TPyP)複合体形成系の極初期過程の動的相互作用挙動解析を検討し、生体機能制御材料開発への適用可能性について検討する。dsDNAとTPyPは、1.インターカレーション、2.グルーブバインディング、3.サイドバインディングの3種類の複合体が報告されており、まず子牛胸腺DNA(ctDNA) および鰊精子DNA(hsDNA)を用い、dsDNAとTPyPを種々の割合で混合し、UV・VisならびにCDスペクトルやNMRを用い、相互作用を検討する。次にTPyPに光照射を行い、光励起により誘起されるdsDNAとTPyP複合体構造変化を蛍光スペクトル、蛍光寿命測定により詳細に検討する。さらに本研究で開発する高感度・高時間分解CD測定装置を用いた観測に取組み、光照射後のdsDNAとTPyPとの複合体構造変化について検討する。高分子量でG-C含量高いctDNAと中分子量でA-TとG-C含量がほぼ均しいhsDNAとTPyPとの複合体構造ならびに光照射よるり構造変化を比較検討し、従来全く報告のない相互作用の極初期過程の有益な知見獲得が期待され、癌の光線治療薬新規開発戦略構築などにつながる成果の取得が期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、高感度高時間分解能を有する円二色性(CD)測定装置開発を目指し、主に理論的再検討に取り組み、位相板の方位角を導入した新たな理論式を導出し、高感度検出の可能性を見出し、新たな高感度測定法構築に向けた仮説を提案を行った。実際の測定系構築、特に再現性良い方位角制御法の構築は容易ではなく、かなりの時間と労力を要した。しかし、新しい方位角制御プログラムを導入することにより、再現性良く、大きなシグナル強度Sの測定可能なシステム構築に成功したため、主に理論的検討ならびに基本装置レイアウトなどの最適化に専念したため、当初予定に比較して研究経費、旅費等の執行額は大幅な減額となった。来年度は構築に成功したシステムを用い、積極的な実測定に取り組むため、測定用サンプル購入や光学系部品など当初本年度購入を予定していた消耗品も含め購入するため、次年度使用額も含めた配分経費の全額執行を予定している。
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