研究課題/領域番号 |
18K19105
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉江 尚子 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20224678)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 高分子材料物性 / 生体模倣 / 強靭化 / 動的結合 |
研究実績の概要 |
高分子鎖を三次元的に架橋してできる架橋ポリマーは、ゴム等として我々の生活になくてはならない材料である。金属やセラミクスなどの他の材料と比べて格段に軟らかい架橋ポリマーの力学的信頼性を向上させることは常に重要な課題である。本研究では、筋タンパク等に特徴的な分子レベルの局所的折りたたみ構造を合成ポリマーで再現し、自然にヒントを得た高靱性化のための普遍的な方法論構築を目的としている。 二年度目となる2019年度には、これまでの成果を踏まえつつ、前年度に明らかになった問題点の解決に注力した。具体的には、これまでの共有結合による局所折りたたみ構造に代えて、可逆的な水素結合による折りたたみ構造の実現を目指した。静置時は安定に存在し、応力印加時にのみ解けるような折りたたみ構造を形成させるためには、比較的結合エネルギーの高い水素結合が必要であると考えられる。そこで、強固な四重水素結合により二量化するウレイドピリミジノン(UPy)基を導入したポリマーの合成法を検討・確立した。また、可逆的な結合により折りたたまれた高分子鎖どうしがサンプル内で密集した状態では、分子間で水素結合の交換が起こり、分子内折りたたみ構造が崩れてしまうと考えられたため、折りたたまれた鎖をある程度孤立させる方法の検討も行った。予備的な知見ではあるが、適切な溶媒を共存させることで、現在検討中のモデル架橋ポリマー系において個々の高分子鎖をより孤立させた状態を実現できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の計画は(1)折りたたみが力学特性に及ぼす効果の分析、(2)折りたたみの効果の普遍性の検証、および(3)可逆な折りたたみの実現の3段階からなる。初年度に(1)の結果が得られたが、同時に最終的な目標達成には可逆な折りたたみ構造が必要であることが分かったため、2019年度には(2)に先んじて(3)の方法論を確立するための検討に注力した。したがって、当初計画から多少の変更はあるものの、最終目標への到達度という観点からは研究は順調に進行していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の研究で検討した水素結合による可逆な折りたたみ構造を有するモデル架橋ポリマーの構築手法に基づき、折りたたみ構造の含有量が異なる試料、あるいは分子間で水素結合した試料を調製し、構造・力学特性の定量的比較により、可逆な折りたたみ構造がもたらす効果を抽出・検証する。現在モデル系として用いている熱可塑性エラストマー系だけでなく、直鎖状を含むその他のポリマー材料への応用可能性の検証も行い、折りたたみ構造による強靭化手法の普遍化を目指す。
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