高分子の三次元網目からなる架橋高分子は産業上重要な材料であり、その力学的信頼性の向上は常に重要な課題である。本研究では、筋タンパク等に特徴的な分子内折りたたみ構造を合成高分子材料中に再現し、自然にヒントを得た高靱性化のための普遍的な方法論構築を目的としている。 最終年度となる2020年度には、これまでの成果を踏まえ、可逆な分子内折りたたみ構造の導入方法の確立、および分子内折りたたみ構造が力学特性に及ぼす効果の検証を行った。具体的には、ブロック共重合体型の熱可塑性エラストマーに強固な水素結合を形成する官能基を導入し、水素結合による分子内架橋を有する材料を調製した。固体材料中で分子内折りたたみ構造を維持するために、水素結合性基を持たない分子を共存させる手法を開発した。材料の力学特性を一軸伸長試験により評価した。分子内折りたたみ構造の導入により、変形時の応力が有意に増加することを見出した。これは、水素結合による分子内折りたたみ構造が架橋高分子の力学特性を向上させることを示唆する結果である。 本研究全体を通して、筋タンパク等に見られる分子内折りたたみ構造を模倣した構造モチーフを有する合成高分子材料を創製するための指針が確立された。これまで明らかでなかった折りたたみ構造による力学特性への影響を、より深く理解するための先駆的な知見が得られた。今後、より多様な高分子種・結合種を用いた折りたたみ構造を実現・検証することで、優れた力学機能を有する材料の開発につながると期待される。
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