研究課題/領域番号 |
18K19110
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
前田 寧 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (60242484)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 高分子構造・物性 / ラマン分光 |
研究実績の概要 |
原子間力顕微鏡(AFM)の探針に固定化した高分子に対して、探針増強ラマン散乱(TERS)とコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)の相乗的な増強効果により高感度でスペクトルを測定でき、同時にカンチレバーのたわみを光てこ方式で測定してフォースカーブを得ることができる装置(AFM-TECARSシステム)を試作した。AFM部分はピエゾステージとカンチレバーホルダー、位置敏感型検出器などを合わせて組み立てた。パルスN2レーザ(337 nm)またはQスイッチNd/YAGグリーンレーザ(532 nm)を2分割してポンプ光と広帯域ストークス光を発生させ、側面から対物レンズを通して探針に照射した。金や銀でコートした探針と基板上の金属蒸着膜の間の微小なギャップに高分子鎖を配置し、そこに誘起される局在プラズモンのホットスポットによりラマン散乱の増強と近接場効果の実現を試みた。放出されたアンチストークス光を対物レンズで集光し、光ファイバーを通して分光器に導入し回折格子で分散させて冷却電子増倍CCD検出器で検出した。広帯域ストークス光とCCD検出器を使うことでスペクトル全体の同時測定が可能であった。AFM探針および試料分子を吸着させる基板には金または銀をコートしたものを用いた。ピエゾステージを制御し、AFMの位置敏感型検出器とラマンのCCD検出器の信号を収集して、AFM像を観察し、フォースカーブに連動した時間分解ラマンスペクトルを測定するためのプログラムは独自に開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画に近い内容で研究を進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
① 高分子電解質の電離と弾性の解析: 探針と基板の間に固定化して一定長に延伸したポリアクリル酸一分子の電離度を、pHを変えることにより変化させ、主鎖コンフォメーションと張力の変化を追跡する。電離度はCOOHとCOO-のC=O伸縮バンドの比により見積もる。イオン強度の効果についても解析する。 ② 温度応答性高分子鎖のコイル-グロビュール転移の解析: 水中でポリ(N-イソプロピルアクリルアミド) (PNiPAm) などの温度応答性高分子が示すコイル-グロビュール転移の過程における単一高分子鎖の張力とアミド基の水素結合、主鎖のコンフォメーション変化を測定する。アミド基の水素結合はアミドI、II、IIIバンドの位置で解析する。ポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)などの他の温度応答性高分子に対して同様な測定を行って結果を比較し、隣接モノマー間の水素結合や疎水性相互作用の張力に対する寄与を系統的に解析する。 ③ 高分子鎖間水素結合と分子間力の同時測定: それぞれ探針と金蒸着膜に固定した2本の高分子鎖の間に水素結合を形成させた後に延伸して、水素結合の開裂と分子間力をリアルタイムで測定する。水素結合性のポリビニルアルコールやポリアクリルアミドを試料として用い、それぞれO-H伸縮バンドとアミドバンドの解析により水素結合数を見積もる。さらに、水素結合アクセプターのPEGと水素結合ドナーのPVAの組み合わせでも同様な測定を行って、ポリマー間水素結合数と分子間力の相関を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたよりも多くの既存設備や部品を使用して装置を試作することができたので、次年度使用額が生じた。今後、試作装置の微調整や改良を行う過程で、より高性能な部品を購入して置き換えるために使用する予定である。
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