研究課題/領域番号 |
18K19110
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
前田 寧 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (60242484)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 高分子構造・物性 / ラマン分光法 / コヒーレントアンチストークスラマン / ナノ構造 |
研究実績の概要 |
高分子と金属塩との複合体の結晶のうち、両者が錯体結晶を形成するpoly(ethylene oxide) (PEO)/NaSCNと、高分子は結晶化せずに金属塩の結晶モルフォロジーが変化するpoly(2-hydroxyethyl acrylate) (PHEA)/ NaSCNの系において、偏光振動分光法により高分子と塩の配向を解析して、結晶モルフォロジー形成のメカニズムを解析した。直線偏光と平行な遷移双極子モーメントや分極率遷移を持つ振動のピークが強く現れることを利用してCN伸縮バンドの強度により、PEO/NaSCNの錯体結晶の球晶中ではSCN-が半径方向に配向し、NaSCNが過剰なときに錯体結晶の表層に生成するNaSCN単体結晶中ではSCN-が円周方向に配向していることを明らかにした。一方、PHEA/ NaSCNではPHEAは無配向であり、ポリマーに溶解したSCN-も無配向である。溶解度を超えると余剰なNaSCNが表層で結晶化して球晶モルフォロジーが形成され、SCN-は球晶の半径方向に配向しており、PEOの時と配向が90°異なることが分かった。 また、特定の波長のラマン散乱光を直接冷却CCDカメラで観測することで、短時間での画像取得を可能にするダイレクトラマンイメージング装置を試作し、微細構造の動的解析に応用した。ビームエキスパンダーで広げた励起レーザー光をサンプルに照射して、放出される散乱光を対物レンズで集め、レイリー光を除去した後にバンドパスフィルタを用いて特定のラマン散乱光を観測した。この方法をメチルビオロゲン (MV) 電気化学反応の動的な観測に応用し、連続的なスペクトルとラマン像の測定を行い、+1価のMVに特有な1353 cm-1のラマンバンドおよびラマン像の輝度を電位で微分して求めたボルタモグラムが電流によるボルタモグラムと一致することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
工学系部門副部門長の職にあり管理運営に係る業務が多忙になったこと、コロナ渦により研究に十分な時間をさけなかったことによる。
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今後の研究の推進方策 |
①温度応答性高分子鎖のコイル-グロビュール転移の解析: 水中でポリ(N-イソプロピルアクリルアミド) (PNiPAm) などの温度応答性高分子が示すコイル-グロビュール転移の過程における単一高分子鎖の張力とアミド基の水素結合、主鎖のコンフォメーション変化を測定する。アミド基の水素結合はアミドI、II、IIIバンドの位置で解析する。ポリ(N,N-ジエチルアクリルアミド)などの他の温度応答性高分子に対して同様な測定を行って結果を比較し、隣接モノマー間の水素結合や疎水性相互作用の張力に対する寄与を系統的に解析する。 ② 高分子と塩の複合結晶のモルフォロジーと相互作用の解析:錯体結晶を形成することが知られているポリエチレングリコールとチオシアン酸塩の混合物や、高分子との相互作用を通じて塩の結晶のモルフォロジーが変化する系において、高分子と塩の配向や両者の間の相互作用を解析し、結晶モルフォロジー形成のメカニズムを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ渦などの影響により研究にやや遅れが生じているので、次年度使用額が生じた。今後、より良いデータの取得と再現性の確認のために使用する予定である。
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