昨年度までに疎水部モノマーとしてジクロロキンケフェニル(QP)、ジクロロビフェニル(BP)を用いてポリフェニレンイオノマー(SPP)を合成し、その構造解析を行った。今年度はさらに小さなジクロロベンゼン(MP)を用いてスルホジクロロベンゼンとの共重合反応を行い、結合位置の効果を詳細に検討した。NMRスペクトルから、合成した重合体が目的の分子構造を有するSPPであることを確認した。SPPはジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒に高い溶解性を示し、溶液キャスト法により透明で柔軟な電解質薄膜を得た。滴定により求めたイオン交換容量は2.4meq/g-程度であった。 得られた各種SPP膜のモルフォロジーを解析するために透過電子顕微鏡像を観察した。親水部ドメインサイズは、昨年度までに合成した系(SPP-QP、約3 nm)と比較して疎水部繰り返し単位が小さいSPP-BPおよびSPP-MPではやや小さい(<2 nm)ことがわかった。さらに小角中性子散乱測定から、親水部ドメイン間の距離は、QP ~ BP (7-8 nm) > MP (3.5 nm)、親水部ドメインのサイズはQP (2 nm) > BP ~ MP ( < 1 nm)と見積もられ、これらの値は用いた疎水部モノマーサイズの順(QP > BP > MP)とよく一致していた。 次に、80℃における各SPP膜の含水率およびプロトン導電率の湿度依存性を評価した。SPP-QP膜と比較して、SPP-BPおよびSPP-MP膜はやや低いプロトン導電率を示した。SPP-BPおよびSPP-MP膜内部における親水部ドメインが小さいため、プロトンの移動度が小さくなっているものと考えられる。以上より、新規材料系としてのポリフェニレンイオノマーの可能性を実証し、また、物性制御のための構造設計指針を得ることができた。
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