従来の潜熱蓄熱材の課題である高コストと低熱伝導性を根本から解決するために、ナノ構造が制御された単一有機無機ハイブリッド分子として注目されているかご型シルセスキオキサン(POSS)が柔粘性結晶性転移を示す固溶体を形成するという新規技術を基盤とした従来にない概念の潜熱蓄熱材を開拓することを目的として研究を行なった。その結果、2019年度は、以下の成果を得た。 1)カルバゾール含有不完全かご型シルセスキオキサン誘導体 POSSの1頂点が欠損した不完全POSS(トリシラノール)と1辺が開裂した不完全POSS(ジシラノール)に着目し、これらのシラノール部位に発光性分子であるカルバゾールを修飾した不完全POSS誘導体をそれぞれ合成したところ、無機骨格の違いにより、異なる熱特性を示した。さらにEL素子の発光層にこれら誘導体を用いて比較を行ったところ、無機骨格の違いにより異なる輝度ー電圧特性評価の結果が得られた。 2)POSSの1頂点が欠損した不完全POSS(トリシラノール) をモノマーとして白金触媒下でヒドロシリル化重合を行い、置換基の組み合わせが異なる4種の可溶性ネットワークポリマーの合成に成功した。キャスト膜を作製したところ、全てのポリマーで透明膜が得られ、組成を制御することで異なる熱特性を示すことを明らかにした。 3)8つのイソブチル置換POSSユニットをオクタジメチルシロキシ-Q8-シルセスキオキサンに結合させたスター型POSS誘導体を合成したとこり、透明膜が得られることがわかった。その熱特性と固体NMR評価を行ったところ、室温においてこれらは柔粘性結晶相であることがわかった。これらの結果は透明性を有する潜熱蓄熱材が得られることを示すものである。
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