セルロースからの高性能ホスト分子の開発と分子認識能の解明

2018 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 18K19116
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 木田 敏之 大阪大学, 工学研究科, 教授 (20234297)
• 研究期間 (年度): 2018-06-29 – 2020-03-31
• キーワード: セルロース / 環化反応 / 環状オリゴ糖 / 分子認識 / 包接錯体

研究実績の概要

研究代表者らが最近合成に成功したメチル化環状セロオリゴ糖の収率向上を目的として、完全メチル化セルロースの酸加水分解により得られる部分メチル化セロオリゴ糖の環化反応の条件検討を行った。6～8個のグルコースユニットからなる部分メチル化セロオリゴ糖（6～8量体）をトルエン溶媒中、粉末状モレキュラーシーブス5A存在下トリフルオロメタンスルホン酸と室温で1時間反応させることで、メチル化環状セロオリゴ糖（6量体）が選択的に生成することがわかった。反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、メチル化環状セロオリゴ糖（6量体）を単離収率5％で得た。また、環化反応時の溶媒をトルエンからベンゼンやキシレンに変えることで、環化生成物中に占める5量体や7量体の比が増加し、溶媒分子が環化反応時のテンプレートとして働いていることが示唆された。
次に、合成したメチル化環状セロオリゴ糖（6量体）のゲスト包接能を、NMR滴定法を用いて評価した。重メタノール/重水 (1/1)溶媒中、ゲストに1-ブタノールや2-プロピン-1-オールを用いた時、ゲストの添加に伴いメチル化環状セロオリゴ糖の空孔内部に存在する3位プロトンシグナルのシフトが観測されたことから、メチル化環状セロオリゴ糖とこれらのゲスト間での包接錯体形成が示唆された。観測されたシフト値をもとに算出した会合定数は、完全メチル化α-シクロデキストリンとこれらのゲスト間での会合定数よりもはるかに高く、メチル化環状セロオリゴ糖が完全メチル化α-シクロデキストリンよりも低級アルコール類に対して高い包接能を示すことが明らかになった。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

従来は１％以下であった、部分メチル化セロオリゴ糖（6～8量体）からの環状セロオリゴ糖（6量体）の環化反応収率を、溶媒にトルエン、酸にトリフルオロメタンスルホン酸、添加剤に粉末状モレキュラーシーブス5Aを用いることで大きく向上させることができた。また、溶媒の種類を変えることで、環状セロオリゴ糖6量体のみならず5量体や7量体が合成できることもわかった。さらに、メチル化環状セロオリゴ糖が完全メチル化α-シクロデキストリンよりも低級アルコール類に対して高い包接能を示すことを明らかにした。以上のことから、当初の計画通り順調に進展しているといえる。

今後の研究の推進方策

1. 未修飾環状セロオリゴ糖の合成法の検討：メチル化環状セロオリゴ糖の合成条件をもとに、未修飾環状セロオリゴ糖を収率良く合成する条件を検討する。
2. 合成した環状セロオリゴ糖のゲスト分子包接能の評価：合成した未修飾環状セロオリゴ糖の構造をNMRならびにX線結晶構造解析により明らかにするとともに、水中での種々のゲスト分子に対する包接能を評価する。ゲスト分子には、ベンゼン、ナフタレン、ピレンなどの芳香族化合物、ニトロフェノールなどの置換芳香族化合物、ヘキサン、デセンなどの直鎖炭化水素系化合物、さらにシクロへキサン、アダマンタンなどの脂環式化合物を用いて、各環状セロオリゴ糖との水中での会合定数をNMR, UV, または円二色性スペクトルにより求める。得られた会合定数を、対応するシクロデキストリンの会合定数とそれぞれ比較しながら環状セロオリゴ糖の包接能について評価する。また、1-フェニルエチルアミン、アミノ酸などの光学活性化合物をゲスト分子に用いて、環状セロオリゴ糖のキラル認識能についても検討する。
3. 包接メカニズムの解明：分子モデリング、2次元ROESYスペクトルならびにX線結晶構造解析により環状セロオリゴ糖と種々のゲスト分子との包接錯体の構造を解析し、環状セロオリゴ糖の包接能との相関ならびに包接メカニズムを明らかにする。

次年度使用額が生じた理由

（理由）研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したために、当初の見込み額と執行金額が異なった。
（使用計画）研究計画に変更はなく、前年度の研究費を含め、当初通りの計画を進めていく。

研究成果

• [雑誌論文] Diastereoselective photocycloaddition reaction of vinyl ether tethered to 1,4-naphthoquinone (2019)
  • 著者名/発表者名: Hiroki Ishikawa, Tim Chung, Gaku Fukuhara, Hajime Shigemitsu, Toshiyuki Kida, Thorsten Bach, Tadashi
  • 雑誌名: ChemPhotoChem 巻: 印刷中 ページ: 印刷中
  • DOI: 10.1002/cptc.201900022
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] GPR31-dependent dendrite protrusion of intestinal CX3CR1+ cells by bacterial metabolites (2019)
  • 著者名/発表者名: Naoki Morita, Eiji Umemoto, Setsuko Fujita, Akio Hayashi, Junichi Kikuta, Ikuo Kimura, Takeshi Haneda, Toshio Imai, Asuka Inoue, Hitomi Mimuro, Yuichi Maeda, Hisako Kayama, Ryu Okumura, Junken Aoki, Nobuhiko Okada, Toshiyuki Kida, Masaru Ishii, Ryusuke Nabeshima, Kiyoshi Takeda
  • 雑誌名: Nature 巻: 566 ページ: 110-114
  • DOI: 10.1038/s41586-019-0884-1
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Fabrication of Supramolecular Cyclodextrin-Fullerene Nonwovens by Electrospinning (2019)
  • 著者名/発表者名: Hiroaki Yoshida, Ken Kikuta, Toshiyuki Kida
  • 雑誌名: Beilstein J. Org. Chem. 巻: 15 ページ: 89-95
  • DOI: 10.3762/bjoc.15.10
  • 査読あり / オープンアクセス
• [雑誌論文] Effective Guest Inclusion by a 6-O-Modified β-Cyclodextrin Dimer in Organic Solvents (2018)
  • 著者名/発表者名: Chizuru Asahara, Takuya Iwamoto, Mitsuru Akashi, Hajime Shigemitsu, Toshiyuki Kida
  • 雑誌名: ChemPlusChem 巻: 83 ページ: 868-873
  • DOI: 10.1002/cplu.201800348
  • 査読あり
• [学会発表] 環状オリゴ糖を用いた油の中の有害物質除去 (2018)
  • 著者名/発表者名: 木田敏之
  • 学会等名: 第2回オレオマテリアル学術交流会
  • 招待講演
• [学会発表] Cellulose Nanotube Formation through One-dimensional Fusion of Cellulose Nanocapsules (2018)
  • 著者名/発表者名: 木田敏之
  • 学会等名: JOCS-AOCS Joint Symposium
  • 国際学会 / 招待講演
• [学会発表] Inclusion Ability oｆ β- and γ- Cyclodextrin Dimers Bearing Multiple Linkers (2018)
  • 著者名/発表者名: 井口ひとみ、伊藤清悟、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第19回国際シクロデキストリンシンポジウム
  • 国際学会
• [学会発表] Synthesis and Inclusion Ability of Novel α-Cyclodextrin Dimers (2018)
  • 著者名/発表者名: 風間 愛、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第19回国際シクロデキストリンシンポジウム
  • 国際学会
• [学会発表] マルチリンカーをもつα-シクロデキストリン二量体の合成と包接能 (2018)
  • 著者名/発表者名: 風間 愛、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第16回ホスト-ゲスト・超分子化学シンポジウム
• [学会発表] マルチリンカーをもつヤヌス型シクロデキストリン二量体の合成と種々の脂肪酸エステルに対する包接能 (2018)
  • 著者名/発表者名: 井口ひとみ、伊藤清悟、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第16回ホスト-ゲスト・超分子化学シンポジウム
• [学会発表] メチル化α-シクロデキストリンからなる超分子構造体の作製 (2018)
  • 著者名/発表者名: 北河瑞紀、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第16回ホスト・ゲスト超分子シンポジウム
• [学会発表] キシロオリゴ糖からなる新規環状ホスト分子の合成 (2018)
  • 著者名/発表者名: 紀平 諒、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第64回高分子研究発表会
• [学会発表] Cellulose Nanotube Formation through One-dimensional Fusion of Cellulose Nanocapsules (2018)
  • 著者名/発表者名: 木田敏之、和田将志、重光 孟
  • 学会等名: Japan Taiwan Bilateral Workshop on Nano-Science 2018
  • 国際学会
• [学会発表] Inclusion Ability of β-Cyclodextrin Dimers Bearing Multiple Linkers (2018)
  • 著者名/発表者名: 井口ひとみ、伊藤清悟、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: Japan Taiwan Bilateral Workshop on Nano-Science 2018
  • 国際学会
• [学会発表] マルチリンカーをもつα-シクロデキストリン二量体の合成と長鎖脂肪酸エステルに対する包接能の検討 (2018)
  • 著者名/発表者名: 風間 愛、井口ひとみ、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第2回オレオマテリアル学術交流会
• [学会発表] キシロオリゴ糖からなる新規環状ホスト分子の合成 (2018)
  • 著者名/発表者名: 紀平 諒、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第2回オレオマテリアル学術交流会
• [学会発表] マルチリンカーをもつJanus型β-シクロデキストリン二量体の合成と包接能 (2018)
  • 著者名/発表者名: 井口ひとみ、伊藤清悟、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第35回シクロデキストリンシンポジウム
• [学会発表] マルチリンカーをもつα-シクロデキストリン二量体の合成と長鎖脂肪酸エステルに対する包接能の検討 (2018)
  • 著者名/発表者名: 風間 愛、井口ひとみ、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 第35回シクロデキストリンシンポジウム
• [学会発表] メチル化α-シクロデキストリンの自己集合を利用した超分子構造体の作製 (2018)
  • 著者名/発表者名: 北河瑞紀、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 日本油化学会第57会年会
• [学会発表] メチル化キシランからの新規環状ホスト分子の合成 (2018)
  • 著者名/発表者名: 紀平 諒、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 日本油化学会第57回年会
• [学会発表] マルチリンカーをもつ種々のα-シクロデキストリン二量体の合成と不飽和脂肪酸エステルに対する包接能の検討 (2018)
  • 著者名/発表者名: 風間 愛、井口ひとみ、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 日本化学会第98春季年会
• [学会発表] メチル化α-シクロデキストリンの自己集合を利用した種々の超分子構造体の作製 (2018)
  • 著者名/発表者名: 北河瑞紀、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 日本化学会第99春季年会
• [学会発表] キシロオリゴ糖からなる新規環状ホスト分子の合成と包接能の検討 (2018)
  • 著者名/発表者名: 紀平 諒、重光 孟、木田敏之
  • 学会等名: 日本化学会第99春季年会
• [産業財産権] 光線力学療法用光増感剤 (2019)
  • 発明者名: 重光 孟、木田敏之
  • 権利者名: 重光 孟、木田敏之
  • 産業財産権種類: 特許
  • 産業財産権番号: 特願2019-39598
• [産業財産権] 円偏光発光材料 (2019)
  • 発明者名: 重光 孟、木田敏之
  • 権利者名: 重光 孟、木田敏之
  • 産業財産権種類: 特許
  • 産業財産権番号: 特願2019-56572
• [産業財産権] 環状オリゴ糖及びその製造方法 (2018)
  • 発明者名: 木田敏之、西浦聖人
  • 権利者名: 木田敏之、西浦聖人
  • 産業財産権種類: 特許
  • 産業財産権番号: 特願2018-194580