研究課題/領域番号 |
18K19118
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
山田 容子 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (20372724)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ノナセン / 高次アセン / グラフェンナノリボン / 走査型プローブ顕微鏡(STM) / ノンコンタクト原子間力顕微鏡(nc-AFM) / 前駆体法 / 光反応 |
研究実績の概要 |
近年ポストシリコンの新しい材料開発に大きな関心が集まっており、中でもナノカーボン材料は次世代材料としての期待が高く、ボトムアップ・トップダウンのグラフェン・カーボンナノチューブ・グラフェンナノリボン(GNR)の合成開発が盛んである。特にジグザグエッジグラフェンナノリボン(ZGNR)は高い導電性が予想されるにも関わらず、エッジがラジカル性を帯びるため不安定で単離が困難であり、理論研究が先行している。一方、ZGNRの部分構造ともいうべき高次アセンも単離精製されたのはヘキサセン(ベンゼン数N = 6)までであり、それ以上長いアセンはスペクトル的に検出されたのみである。本研究では、通常の方法では合成が難しい高次アセンの基板上合成の方法を確立し、その電子構造を明らかにすることを目的として研究を遂行した。 今回我々は、光照射することで定量的にノナセンへと変換可能な前駆体の合成に成功し、R. Fasel教授(スイス)との共同研究により、ベンゼン環が9つ連結したノナセンの基板上合成に成功、走査型プローブ顕微鏡(STM)やノンコンタクト原子間力顕微鏡(nc-AFM)測定によりその電子構造を明らかにした(Nat. Commun. 2019, 10, 861)。ノナセンは中央部分が開殻のビラジカル構造を取ることが理論的に予測されていたが、ノナセンが酸化に対して不安定であるため、実験的な証明は報告されていない。我々は超高真空下基板上での光反応により、Au(111)面上でノナセンを合成し、微分コンダクタンスの測定によりエネルギーギャップを見積もり、理論値と比較することでその構造を明らかにした。またノナセンが金基盤から金原子を引き上げて、中央のベンゼン環で相互作用していることも、実験的に明らかにし、上記の電子構造を裏付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度は、ノナセンのビスジケトン前駆体の合成と精製に注力し、高純度のサンプルを得たのち、得られた前駆体の結晶構造を明らかにした。金基板上に昇華したのち光照射することでノナセンへと変換し、走査型プローブ顕微鏡(STM)やノンコンタクト原子間力顕微鏡(nc-AFM)で観測することに成功した(Nat. Commun. 2019, 10, 861)。いくつかのグループがそれぞれオリジナルの前駆体を用いて高次アセンの基板上合成を行っており、この分野の競争は大変厳しいものであるが、我々は単に分子のイメージを観測するだけでなく、連結しているベンゼン環の数とエネルギーギャップの相関を測定に基づいて議論することにより、ノナセンが開殻構造であることを実証することに世界で初めて成功した(ヘプタセン合成はJ. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 11658に報告済)。 他のグループが用いる前駆体は、大気下では加熱により変換するものが多く、光照射に対しては安定であり、基板上でも加熱かチップ操作による反応にとどまる。それに対し我々のビスジケトン前駆体は、大気下では加熱に対して安定であるため取り扱いが容易であり、光照射のみでアセンへと変換する。一方基板上では、光照射、加熱、チップ操作で変換可能であるため、部刺激を使い分けることで局所的にアセンへと変換することも可能であり、今後基板上合成の新しい可能性につながると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
高次アセンは、極細ジグザグナノリボン(ZGNR)と見做すことができ不安定であるが、我々の前駆体法による基板上合成は、超高真空下で反応を進行できるため、高次アセンの合成が可能である。高次アセンの電子構造の解明は、次世代カーボンナノ材料として注目されるGNRの基礎学理に大きく寄与するものである。そこで、さらに長いGNRの合成に挑戦する。また、当初の計画通り、ヘテロ原子を組み込んだヘテロアセンの合成やその物性評価を進める。例えば窒素を導入したアザアセンは、同じ長さのアセンよりも安定性に優れることが期待される。そこでアザアセンを含むヘテロアセンの構造と性質を明らかにする。 前駆体の反応性は、大気中の通常の有機合成雰囲気と、超高真空下基板上では大きく異なるため、通常の合成条件では不可能な反応を起こせる可能性がある。そこで、前駆体の基板上での反応条件を検討し、新たな可能性を模索する。 これまでに、アセンのジブロモ前駆体を加熱すると、アセンの金複合体を生成する事を見出している。より長いアセンにすることで、その反応点にどのような影響があるのか、興味深い。本研究を通じて、高次アセンの電子構造について包括的な知見が得られるよう、前駆体の設計合成を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の結果を受けて、さらに長い合成ステップでの合成が予想されるため、試薬などの消耗品費がより多く必要となることが見込まれるため次年度に繰越すこととした。また2019年度に国際会議での招待講演が重なり、旅費が予定より多く必要になったため今年度の旅費を次年度に繰越すこととした。
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