研究課題/領域番号 |
18K19120
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小柳津 研一 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (90277822)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 有機電極活物質 / ナノ粒子 / 電荷貯蔵 / 電子授受 / レドックスフロー電池 |
研究実績の概要 |
高密度レドックス流体を与えるナノ構造体を,電子交換に基づく電荷伝播の解析から創出し,レドックス凝縮相を形成する流体の設計指針を明確にするとともに,ナノ粒子間の交換反応に基づく電荷輸送・貯蔵機構の解明を経て,高速・大容量フロー蓄電の基礎原理を明確にすることを本研究の目的として展開している。 具体的には,有機安定ラジカル種の可逆で速い一電子授受に着目し,ラジカルを電荷交換席として繰返し単位あたり高密度に置換した非晶質ポリマーによる高速電荷輸送の実現を目指している。さらに,このポリマーを活物質とした有機ラジカル電池を拡張し,ポリマーが水系電解質に分散したナノ粒子の形態で高密度蓄電を担う,斬新な有機フロー活物質を創製することも目的としている。 これらの目的達成のため,本年度は,前年度の展開を受けて下記のように推進し,成果集積した。 (1) 前年度に着手した「分散粒子の電子交換に基く蓄電現象の物理化学」の解明に向け,水系電解液に分散させた高密度レドックスポリマー粒子の充放電特性を詳細に解明した。粒子内の電荷拡散係数Dを求め,自己電子交換の二次反応速度定数kexを導出した。有機ラジカル種やアントラキノン (AQ),フェナントレンキノン (PQ) 類の速い外圏的電子移動が,ポリマー粒子中でも大きなkexを与えることを数種の実例について明らかにした。実測容量がレドックス席数と直線関係にある条件を明らかにし,レドックス系としての理想的振舞いを示す範囲を分散粒子の特性として把握した。 (2) ナノ粒子の物質移動制御について本年度から研究着手した。サイズ制御された高密度レドックスポリマー粒子の充放電では,セパレータに多孔膜を利用できるため高出力特性を導けることを明らかにし,従前の電解質膜を使用することなく高レートのレドックスフロー電池を構成できる方法論として有用であることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度の展開を受け本年度は,高分散性を有する高密度レドックスポリマー粒子の創出に注力し,水系電解質で大きな電位差を与えた電子授受席ペアを絞り込んだ。これは計画に沿った展開による当初期待した成果の範囲内である一方,官能基耐性高くナノ粒子を与える重合法を広く探求する中で,電子授受席を当初の想定より遥かに当重量小さく (モノマー単位で密度高く) できることを見出すことができ,これが拡張性のある方法論であることも明確になった。結果として,高密度レドックス流体の品揃えを広く確保できるに至り,当初の計画を前倒しで実施可能となっている。また,損失の少ない低粘度流体を与える方法論として,逆相乳化重合やナノ寸法のボトルブラシポリマーへの展開を計画通りに推進した結果,数例で思いがけず理論容量に近い実測値が濃厚分散系でも引き出せることが明らかになった。 以上より,現在まで着実な成果の積み上げが進展しているとともに,予想外の新知見も得られており,当初の目標値を超えた性能実現が可能となりつつあることから,当初計画以上に進展していると判断している。これらを基盤として最終年度である次年度は,当初期待した以上の具体的成果を固めるとともに,続くプロジェクトに拡張させるための基礎を確立できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度成果を承け,最終年度である第3年度は成果取りまとめに向けて,有機フロー電池に関する具体的知見を一層集積するとともに,研究成果の公開にも注力する。 具体的には,電子授受席の超高濃度化 (5 M程度に挑戦) により,Liイオン電池など固体電池に迫る (あるいは超える) 超高エネルギー密度と,現在のレドックスフロー電池と同等以上の高出力特性を達成する。有機物の強みを生かして,希少元素を一切含まず,低コストで取扱い易い低環境負荷型の電解質として定着させる。また,電解液の連続循環と多孔膜での物質移動制御に基づくエネルギーロス低減を達成する。以上を総合して,フロー電池を構成する有機蓄電物質ならではの優位性・メリットを明確に示す。
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