現行のリチウムイオン電池は研究開発の進展とともに性能の限界に近づきつつあり、新しい電極反応機構に立脚した革新的蓄電デバイスの開発が望まれている。特に、リチウムイオンの挿入脱離反応に伴う遷移金属イオンの酸化還元反応だけでは、未来社会における要求性能をエネルギー密度の観点で満たすことは難しい。そこで、本研究は、革新的蓄電デバイスの開発を目指し、アニオンを基盤とする固体電気化学反応を開拓する。 2020年度においては、エネルギー損失の無い酸化物イオンを酸化還元中心とする電極材料の開発に成功した。すなわち、従来の酸素レドックス材料は、酸化物イオンの酸化に伴い過酸化物イオンを生成して充電エネルギーを放熱するため、還元による放電エネルギーが大幅に減少する問題点があった。そこで、遷移金属イオンとの相互作用を適切に制御することで酸化物イオンが過酸化物イオンに変化することを大幅に抑制する層状酸化物電極材料を設計し、実際に、エネルギー損失の無い酸素レドックス反応を実現することに成功した。理論計算の結果、過剰な酸化物イオンの酸化が行われた場合、遷移金属イオンの安定化効果を超えて可酸化物イオン生成が安定化してエネルギー損失を生じることも分かり、エネルギー損失の無い酸素レドックス材料の設計指針を明確にすることに成功した。この成果は、エネルギー損失の無い高容量正極材料の開発における基盤的知見となるものであり、学術・工学両面への広い波及効果が期待される。
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