研究課題/領域番号 |
18K19125
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
中島 章 東京工業大学, 物質理工学院, 教授 (00302795)
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研究分担者 |
酒井 宗寿 茨城大学, 研究・産学官連携機構, 准教授 (00392928)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ライデンフロスト / 酸化亜鉛 |
研究実績の概要 |
本年度は動的ライデンフロスト現象に支配する要因を明らかにすることを目的に研究を行った。ラチェット型に加工した金属亜鉛板と平滑な亜鉛板に対し、硝酸亜鉛とヘキサメチレンテトラミンを含む水溶液中で水熱処理を実施することにより、表面に酸化亜鉛ナノロッドを形成した。得られた表面にフッ素系のシランカップリング材をコーティングすることで撥水化し、その上での水滴のライデンフロスト温度、ならびにその移動速度の測定、移動の際の液滴の内部流動の直接観察を試みた。 亜鉛版の表面に酸化亜鉛ナノロッドを形成することにより、ライデンフロスト温度は、138oCから120oCに低下した。この結果は従来の知見と一致する。表面をラチェット加工した亜鉛版の上を、ライデンフロスト現象により向かって左側に水滴が移動する際に、移動する水滴の内部流動を、粒子画像流速計測で調査したところ、固体表面がラチェット構造であることにより加熱表面が垂直から傾いていることで生じる水滴内部の時計回りの熱対流と、水滴の周囲を回る水蒸気の吹き出しにより生まれる反時計回りの流れが、逆向きの二層流となっており、初めはそれぞれが鬩ぎあうが、やがて水蒸気の吹き出しによる流れが内部の熱対流に勝って水滴を移動させていることが明らかになった。この内部流動の特徴は、本研究が世界で初めて明らかにしたものである。ラチェット構造を有する亜鉛板に酸化亜鉛ナノロッドを形成すると、ライデンフロスト温度は低下するものの、その際の移動速度も低下した。これは水蒸気の吹き出しが固体表面に沿って流出する際に、酸化亜鉛ナノロッドにより乱されることによるものと考えられた。これらのことから、酸化亜鉛ナノロッドを形成することは、ライデンフロスト温度を低下させるものの液滴の移動速度が低下するトレードオフの関係になることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では100~300oCの比較的低温の温度領域で発現する「ライデンフロスト現象」に着目し、この現象を効果的に固体材料表面上に発現させ、液滴の高速回転運動を誘起することで、低温廃熱を回収する「新規熱電変換デバイス」の開発を試みることを目的としている。そのため本研究では、ライデンフロスト現象による水滴運動を効果的に発現させる固体表面の構造や濡れ性の設計指針の構築と、ライデンフロスト現象を用いた水滴の回転運動に関する流動ダイナミクスの解明、並びに得られた知見に基づく熱電変換デバイスの試作に焦点を当てて進めることにしており、最終的には材料科学、表面科学、電気化学、熱流体科学の融合により、低温廃熱からのエネルギー回収に関する学理の構築に繋げていく。 実施計画として今年度は効果的にライデンフロスト現象を発現する適切な粗さ構造の検討を中心課題としていた。今年度はラチェット加工した亜鉛板に酸化亜鉛ナノロッドを形成することで、ライデンフロスト温度と液滴の移動速度との関係を把握することができ、更には内部流動を詳細に解析することで、その原因を明らかにすることができた。特に動的ライデンフロスト現象における水滴の内部流動中に見られる、対抗する二層流の存在は、世界で初めての知見である。これらの検討からデバイス試作に対する有益な知見が得られたと考えており、以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
30年度に得られた結果を踏まえ、31年度はラチェット構造や、酸化亜鉛ナノロッドの大きさの違いによる、上記のトレードオフの関係について、より詳細な調査を行うとともに、液滴の回転運動を駆動力にして、実際に磁石やコイル等の発電要素を含むフライホイールを回転させるための動力部の設計を行う。概要欄に記載したトレードオフの関係は、ラチェットの構造と酸化亜鉛ナノロッドの構造に何らかの最適値が存在する可能性が考えられる。或いはラチェット構造中に、部分的に酸化亜鉛ナノロッドを形成することが適切かも知れない。これらの効果についてさらに調査を進める。併せて昨年度に見出した対抗する二層流について、モデル計算を試みていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用した亜鉛板のラチェット加工を学内の技術部に依頼したが、この経費の請求が次年度になったため。 31年度は異なるラチェット構造の試作、各種表面分析、動力部位の試作等に経費を使用する。
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