研究課題/領域番号 |
18K19129
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
中山 将伸 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10401530)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / 充放電反応 / 非対称性 / ラプラス変換インピーダンス法 |
研究実績の概要 |
リチウムイオン電池のスピネル型電極材料であるLiMn2O4は安価な元素で構成される材料のため大型蓄電池等への応用が期待されている。しかし理論容量の半分を占める3V充放電領域では過電圧が大きく活用できない。しかし、3V領域では二相共存反応による充放電反応が進行するが、動的反応モデルが明らかではなく機構解明が必要である。従来の交流インピーダンス法では充放電時の反応機構を別個に解析できない。そこで、本研究では充電と放電過程を別個に解析することが可能であるラプラス変換インピーダンス法を用いてLiMn2O4における二相共存反応の反応機構や充放電時の抵抗機構の調査を行った。 LiMn2O4の合成は固相および液相反応法で行った。活物質(LiMn2O4)、導電付与剤(AB)、バインダー(PVDF)を80:10:10の重量比で混合して塗布電極を作製しコインセルを組み立てた。3V領域で二相共存反応を示すLi1.25Mn2O4を測定対象として、直流電流パルスを印加し応答電位プロファイルをラプラス変換インピーダンス測定を行った。なお、広い周波数領域で測定を行うために、測定間隔の異なる6ch電圧計測を行った。 電流パルスに対する応答電圧の挙動から、充電反応と放電反応のダイナミクスに非対称性があることが確認された。得られたラプラス変換インピーダンスを等価回路を用いてフィッティングを行った。フィッティングにより得られた各抵抗成分を印加電流値に対して評価した結果、充電および放電ともにButtler-Volmer型反応速度式に従うことが示唆された。この結果を利用して、充電と放電の交換電流密度を計測し、その温度依存性を確認したところ、アレニウス式に従うことを示した。得られた結果から、初めて充電及び放電の活性化エネルギーを別個に評価できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、ラプラス変換インピーダンス法を幅広い周波数レンジで測定ができるように、高速ロガーを導入し、予定通りの精度でインピーダンス変換が可能であることを確認できた。更にLiMn2O4電極を用いて、充電及び放電の抵抗成分がアレニウス則に従う反応であり、活性化エネルギーを別個に算出することができた。これらの成果は世界的にも初めての成果であり、定量的な充放電別の反応解析の手法を提案することに成功できたと言える。これらの実験的成果から、溶媒和/脱溶媒和や過飽和過程に由来する核生成・成長反応あるいはスピノーダル分解反応などの具体的モデル化に結びつつある。現状でも、核生成反応やスピノーダル分解反応に要するエネルギー障壁に関する第一原理計算を同時並行的に進めており、ある程度、計算値が実験値に一致する予備的検討結果を得ている。以上より、ほぼ研究計画書に基づいて研究を遂行できていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
実験的には導入した機器により測定法が高周波領域でも予定通りの精度で検証できることが分かったが、中~低周波領域は既存設備による電圧信号解析を行っているため、装置稼働の時間的制約がある。今後、多数の材料系に対して本手法を適用することができるため、研究を加速するために、中~低周波領域に対応する機器の導入を検討する。また、計算面では第一原理計算に基づきナノスケールでの充電放電反応の非対称解析が有効であるという結果が得られているが、巨視的な解析については有限要素法の適用が望ましい。これまでに導出した第一原理計算結果を有限要素法のパラメーターとして入力し、巨視的レベルで充放電反応の非対称性が発生しないか検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画の進捗は予定通りであったが、研究進捗速度の律速が既存設備である電気化学用ポテンショスタット計器の利用できる日数制限になってしまった。そのため、当初予定していた学生RAによる人件費が不要となったことに加え、装置導入を予定していた高速ロガーの追加購入を見合わせたことから、次年度使用額が発生した。これらの費用を用いて、律速である電気化学用ポテンショスタットの購入に充当する予定である。
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