研究課題/領域番号 |
18K19132
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
片桐 清文 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (30432248)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 構造色 / 電気泳動堆積法 / コロイド粒子 / コーティング膜 / 電解析出法 / 黒色物質 |
研究実績の概要 |
構造色は微細構造における光の散乱や干渉で発色するもので、色素とは発色メカニズムが全く異なる色材として注目されている。微粒子集積体による構造発色性材料はその代表例であるが、構造安定性が乏しいうえに、水に濡れた場合、空隙に水が入り込むことで屈折率差が変化し、色調が変わってしまう問題点があった。本研究課題では、耐摩擦特性を有し、かつ環境の変化によっても色調が変わらない「ロバスト」な構造色コーティング膜の作製手法の開拓に挑戦することを目的としている。 本研究におけるコーティング膜の作製は、電気泳動堆積法(電着法)による粒子堆積膜の作製をベースとする。これまでの予備検討において粒子堆積膜を電着法で作製することは達成しているが、その膜は耐摩擦性が極めて乏しかった。 前年度までは電着膜の耐摩擦性向上をターゲットとして研究を遂行した。特に、粒子堆積膜において、粒子同士をバインダーとなるMg(OH)2の同時電析させることで高い堅牢性を有する構造発色性コーティング膜の作製を試みた。さらにその過程において、粒子の電着とMg(OH)2の同時電析のメカニズムの解析を行った。その結果、高い耐摩擦性を有するコーティング膜を得ることができ、その形成メカニズムも解明した。しかし、耐摩擦性の観点では十分な堅牢性が得られたものの、耐熱性の観点では十分ではなかった。 そこで2020年度は、コーティング膜の構造発色性の耐熱性向上に取り組んだ。粒子堆積型コーティングで鮮やかな構造発色を実現するためには光の多重散乱を吸収する黒色物質の添加が必要であるが、これまで用いてきたカーボンブラックやFe3O4はいずれも高温でその黒さを失ってしまう。そこで添加する黒色物質として耐熱性を有し、かつSiO2球状粒子と同時電着できる材料の探索を行った。その結果、900℃まで加熱しても構造発色を維持できるコーティング膜を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、高温の加熱で焼失するカーボンや、Fe2O3への酸化で赤くなってしまうFe3O4などの従来の黒色物質の耐熱性の弱点を克服する材料の探索を行った。これにより、これまでは鮮やかな構造発色性が失われてしまう600℃以上への加熱にも耐えることができる構造発色性コーティング膜の作製を実現することができた。さらに、その黒色物質を構成する元素によっては、粒子堆積膜のメイン成分となるSiO2粒子を反応することがあり、耐熱性に違いが現れることも明らかにした。 以上を総合的に勘案し、当初の計画にしたがって、おおむね順調に研究が進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、金属水酸化物であるMg(OH)2を粒子の電着と同時に電析させることで、耐摩擦性の高い構造色コーティングが得られることを明らかにした。また、従来用いてきたカーボンブラックやFe3O4などの耐熱性に乏しい材料を代替する新たな黒色物質の探索を行い、900℃まで構造発色性の維持が可能なコーティング膜の作製を実現した。 したがって、今後はまず粒子堆積膜をコーティング後に焼成することで粒子間に電析したMg(OH)2をMgOに転換し、粒子同士や粒子と基板の接着性を向上することを試みる。 また、耐摩擦性と鮮やかな構造発色を両立するには、単に粒子を接着するのではなく、より屈折率を有する遷移金属酸化物結晶でSiO2粒子堆積膜の空隙を完全に埋める必要がある。そこで、様々な手法で、高屈折率の金属酸化物を粒子間の空隙に充填することを検討する。粒子集積体における構造発色は、塗膜が濡れて粒子間に液体が入り込むと屈折率差の変化から色調が変化してしまう問題もあるが、粒子間が別の酸化物で充填されれば、液体の侵入もなくなり、濡れによる構造色の色調変化も防止できると考えられる。 また、光触媒活性を有する金属酸化物を用いることでセルフクリーニング機能も期待できる。構造色コーティングにセルフクリーニング機能を付与できれば、汚れによる色のくすみも防ぐことができると考えられる。そこで塗膜のセルフクリーニング機能をメチレンブルー等の色素を表面に付着させ、UV照射による色素除去の試験を行って評価することも視野に入れている。さらに、様々な粒径の粒子を用いた多様な色のコーティング、複雑形状表面へのコーティングや印加電圧で粒子充填状態を制御して発色の角度依存性を制御することも継続的に試みる。 最終的に、本研究課題を通じた成果をとりまとめることで、ロバストな「構造色塗装」の学理の構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)立案した研究計画の多くはすでに遂行し、目的とした成果は十分に得られたが、参加を予定していた学会が新型コロナウイルスの影響により中止・延期となり、その旅費や参加費の使用が急遽無くなったため。 (使用計画)当初計画どおりに研究が進展しており、得られた成果も新聞等で報道されるなど、大きな注目を集めている。したがって前年度中止となった学会で発表予定であった成果を今年度中に開催される学会で発表することや、オープンアクセスの論文誌に投稿することで成果のさらなる普及を行い、研究のとりまとめを行うことを計画している。
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