研究課題
窒化ホウ素(BN)結晶は低密度の六方晶(hBN)と高密度の立方晶(cBN)が工業的に活用されている。hBNは耐熱材・摺動材等、cBNはダイヤモンドに次ぐ超硬質材料等として応用が進んでおり、更にワイドギャップ半導体としての優れた特性も期待されている。しかしながらその基礎物性、とりわけホウ素同位体濃縮効果の研究は未踏であり、良質結晶による物性評価を通じた新機能の探索、応用展開は未踏であった。本課題では、hBN原料とホウ窒化物触媒からなる既存のcBN合成法によらず、ホウ化物から直接高圧下の化学反応による新たなcBN結晶の合成経路を確立した。これによりホウ素同位体(10B,11B,14N及び15N)組成を任意に制御したhBNとcBN高品位単結晶を合成し、その基礎物性を明らかにした。ラマン分析により、ラマンシフトとSIMS分析により評価した同位体濃縮で度の間に明瞭な線形関係が得られた。今後、得られた結果を基にBNの同位体組成の定量的な決定にラマンシフトが活用できる。2019年度は同単結晶の同位体効果による新たな機能発現において興味深い結果が得られた。えらすなわち、cBN単結晶のホウ素同位体(10B及び11B)を濃縮することで、室温に置いてダイヤモンドに匹敵する熱伝導率の向上が見出された。これは米国MIT、テキサス大学、ヒューストン大学、中国 北京大との国際共同研究であり、本研究で得られた同位体濃縮cBN単結晶の熱物性を米国複数機関において評価した結果であり、Science誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
高圧下の複分解反応によりホウ化物(NaBH4)とアンモニウム塩(NH4Cl)によるcBN単結晶(500μm程度)の合成ルートを確立し、試薬のホウ素及び窒素同位体濃度を調整することでcBN及びhBN結晶中のホウ素、窒素濃度同位体濃度比の制御を手法を確立した。更に熱物性評価よりcBNの顕著なホウ素同位体効果(熱伝導率が2倍弱に向上)が明らかにされた。いずれも世界で初めての成果であり、研究の進捗は順調である。
cBN中の顕著なホウ素同位体効果が明らかになった段階で、同じ窒化ホウ素の低密度相である六方晶窒化ホウ素(hBN)の同位体濃縮結晶の特性が興味深い。そこで同様の評価を、テキサス大学を中心に進めているが、結晶本来の異方性に伴う測定の困難さ故に2019度(2020年3月末)までに再現性の良い結果を得ることができなかった。そこで2020年度までの一年の研究資金活用を認めて戴き、テキサス大学との連携(結晶形状の最適化等の情報交換)によりhBNのホウ素及び窒素同位体効果の熱伝導率への影響を明らかにする。
本課題で合成した窒化ホウ素の低密度相である六方晶窒化ホウ素の同位体濃縮結晶の熱伝導率の評価を、テキサス大学を中心に進めているが、結晶本来の異方性に伴う測定の困難さ故に2019年度(2020年3月末)までに再現性の良い結果を得ることが困難であった。この問題を解決するために、試料形状の最適化(試料サイズを現行の辺長1mmから2mm程度までの大型化と試料の縦横比の最適化)を進める必要がある。この際、これまでは試料の送付とe-mail等による情報の交換に留まっていた国際連携であるが、可能であれば実際に連携先を訪問することにより、より精度の高い試料構成への知見(測定手法に適した試料形状の把握)を得ることも計画している。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Science
巻: 367 ページ: 555-559
10.1126/science.aaz6149