研究課題/領域番号 |
18K19137
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
上田 実 東北大学, 理学研究科, 教授 (60265931)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 輸送体 / NPFファミリー / GTR1 / 二次代謝 |
研究実績の概要 |
植物ホルモンは、植物の発生、成長、環境変化や外敵への防御応答など、ほぼ全ての生理機能制御に関わる化学因子である。近年、その植物体内での時空間的分布は、輸送体タンパク質によって厳密に制御されていることが分かってきた。我々は、植物の免疫ホルモン ジャスモノイルイソロイシン(JA-Ile)の輸送体GTR1を発見した。GTR1は53種の膜輸送体が属するNPFファミリーのメンバーであり、既知の硝酸イオン輸送体NPF6.3と同様に膜上で二量体を形成する。GTR1は膜上で二量体を形成するが、その際、パートナーによって輸送基質のスイッチングが起こる。例えば、GTR1ホモ二量体はグルコシノレートの輸送体として、また他のNPFメンバーとのヘテロ二量体GTR1-NPF4.1/1.2はそれぞれJA-Ile/ジベレリンの輸送体として機能する。また我々は、GTR1が関与する二量体形成がThr135のリン酸化/脱リン酸化で制御されることを明らかにした。二量体形成には、既知のモチーフ構造中のThr135のリン酸化が重要であり、T135D/T135Aに変異させた点変異タンパク質を用いることで、単量体と二量体を作り出すことに成功したことで、各々の輸送基質を明らかにすることが出来た。GTR1はこれまでの輸送体の概念を塗り替える全く新しいタイプの輸送体である。この過去に例のない二量体形成による輸送基質スイッチング現象は、輸送体制御薬の開発を可能にする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は、植物の最も重要な生理活性物質である植物ホルモン(図3a)の時空間的分布を制御する分子技術を開発した。植物ホルモンの多くは、タンパク質間相互作用(PPI)型共受容体をもち、2種のタンパク質間にPPIを誘導することでシグナル伝達を引き起こす。PPI型共受容体を構成する2種のタンパク質に、それぞれ転写因子のDNA結合領域(DBD)および活性化領域(AD)を結合させ、これらをヒスチジン要求性酵母変異株に形質転換した。この酵母変異株にGTR1を発現させ、さらに残り52種のNPFファミリータンパク質を各々共発現させることで、ホルモンを輸送するGTR1-NPFの組み合わせでのみ、酵母の成長が起こるスクリーニングシステムを構築した。再現性には未だ問題があるが、スクリーニングが可能であることを確認できた また我々は、split-Venusを用いるBiFC実験によってGTR1の二量体形成を評価できる実験系を構築し、GTR1中のThr135がリン酸化/脱リン酸化により単量体/二量体となることを確認した。GTR1と同じNPFファミリーに属する硝酸イオン輸送体NPF6.3のリン酸化には、リン酸化酵素CIPK23が関与する。GTR1のリン酸化もそのホモログによると推定されることから、CIPK23に対して選択的な阻害活性を示す阻害剤を公的化合物ライブラリーから探索した後、CIPK23とGTR1を同時に発現させた卵母細胞でBiFC実験を行い、GTR1二量体形成を促進する化合物を探索する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、我々が開発したスクリーニング系を用いて、ヒットを見出すことが必要である。ツーハイブリッド系酵母変異株を用いたGTR1-NPFの組み合わせスクリーニングは、再現性が低く、その原因を解明することが大きな課題となっている。 また、GTR1のリン酸化/脱リン酸化による単量体/二量体形成を促進あるいは阻害する化合物のスクリーニングは、キナーゼ、プロテアーゼ阻害剤の毒性のためになかなかうまくヒットが出ない。今後は、選択性に優れたキナーゼ、プロテアーゼ阻害剤である天然有機化合物を用いたスクリーニングを行う必要があると思われる。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在の所、構築した評価系を用いたスクリーニングを検討中であり、引き続きスクリーニングを行う必要がある。これは、スクリーニング系の再現性が低く、その原因究明に長時間を要したことが原因である。未だ原因は完全に解明されていないが、引き続き検討を行う。一部の系では比較的再現性の良い結果が得られているので、その部分を用いて検討を個なうことが妥当であると考えている。
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