研究課題/領域番号 |
18K19138
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川島 茂裕 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任講師 (40508115)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 低分子化合物 / 阻害剤 / ミダシン / リボソーム生合成 / AAA+タンパク質で |
研究実績の概要 |
低分子化合物は安価で大量に合成できるという大きな利点があり、新たなdruggableな標的とその標的を阻害する低分子化合物を同定することは挑戦的であるものの、人類の健康にとって大事な研究である。増殖の盛んながん細胞で亢進しているリボソーム生合成のプロセシング過程には200以上の調節因子が関与しているため、それらを標的とした阻害剤は抗がん剤の候補となりうる。しかしながら、現在までにヒトの調節因子に対する選択的な阻害剤は報告がない。本研究ではヒトにおけるリボソーム生合成調節因子、特にAAA+タンパク質であるミダシンの阻害剤の同定を目標とし、抗がん剤の新たなリード化合物の創製を目指す。今年度は共同研究で行っていた分裂酵母ミダシンの構造に関する新たな知見をまとめ、論文として発表した(Chen Z et al. Cell 2018)。次の目標は、ヒトミダシン組換えタンパク質の精製を行い、in vitroにおけるATPase活性の測定系を確立することである。今年度は、ヒトミダシン組換えタンパク質の精製を試みた。応募者はこれまでにヒトミダシン全長遺伝子(16,791 bp)のクローニングに成功していたため、昆虫細胞発現用のプラスミドにヒトミダシン全長遺伝子を導入した。応募者らは以前の研究において、昆虫細胞・バキュロウイルスによる発現系を用い、His-tag精製、イオン交換クロマトグラフィー(Mono Q)、ゲル濾過クロマトグラフィーの順に精製することにより、ATPase活性のある分裂酵母ミダシンの全長組換えタンパク質を得ることに成功した(Kawashima SA et al. Cell 2016)。そこで次に、この方法を元にヒトミダシン全長組換えタンパク質の精製を試みた。しかし、これまでに十分量の全長のタンパク質を得ることはできていない。現在、昆虫細胞系の最適化および精製過程の最適化を行なっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヒトミダシンは全長5000アミノ酸を超える超巨大タンパク質であり、その全長組換えタンパク質の精製は簡単ではないことは予想の範囲内であった。特に、昆虫細胞系の最適化および精製過程の最適化に最も時間がかかると予想される。これまでに最適化に向けていくつかの情報が得られている。、また、今年度は共同研究で行っていた分裂酵母ミダシンの構造に関する新たな知見をまとめ、論文として発表した(Chen Z et al. Cell 2018)。以上から、本研究課題の進捗状況は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトミダシン全長組換えタンパク質の精製に向けて、昆虫細胞系の最適化および精製過程の最適化を行う。精製できたら、応募者がこれまでに同定した分裂酵母ミダシンの阻害剤Rbin-1がヒトミダシンのATPase活性を阻害可能か検討する。また、応募者は分裂酵母ミダシンの温度感受性変異株と合成致死性を示す化合物として、現在までに東京大学創薬機構が保持している約20万化合物の中から、Rbin-1とは異なる骨格を有するヒット化合物を6化合物取得している。まずこれらが、分裂酵母ミダシンのATPase活性を阻害可能か検討する。もし阻害活性が見られたら、ヒトミダシンのATPase活性を阻害できるか調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は、ヒトミダシン組換えタンパク質の精製を行い、in vitroにおけるATPase活性の測定系を確立する一連の実験に今年度の助成金を使用する計画であった。しかし実際は、今年度は共同研究で行っていた分裂酵母ミダシンの構造に関する新たな知見をまとめることに注力したため、今年度使用額が予定と異なった。当初の使用計画であった、ヒトミダシン組換えタンパク質の精製を行い、in vitroにおけるATPase活性の測定系を確立する一連の実験は、翌年度分として請求した助成金と合わせて使用する計画に変更した。
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