研究課題
低分子化合物は安価で大量に合成できるという大きな利点があり、新たなdruggableな標的とその標的を阻害する低分子化合物を同定することは挑戦的であるものの、人類の健康にとって大事な研究である。増殖の盛んながん細胞で亢進しているリボソーム生合成のプロセシング過程には200以上の調節因子が関与しているため、それらを標的とした阻害剤は抗がん剤の候補となりうる。しかしながら、現在までにヒトの調節因子に対する選択的な阻害剤は報告がない。本研究ではヒトにおけるリボソーム生合成調節因子、特にAAA+タンパク質であるミダシンの阻害剤の同定を目標とし、抗がん剤の新たなリード化合物の創製を目指す。応募者はこれまでにヒトミダシン全長遺伝子(16,791bp)のクローニングに成功していたため、昆虫細胞発現用のプラスミドにヒトミダシン全長遺伝子を導入した。昨年度までは、ヒトミダシン全長タンパク質の発現は確認できたものの、目的のタンパク質には至っていなかった。今年度は、昆虫細胞の培養条件を再度詳細に検討を行った結果、十分量のヒトミダシン全長タンパク質の発現に成功し、His-tag精製、イオン交換クロマトグラフィー(Mono Q)、ゲル濾過クロマトグラフィーの順に精製することにより、目的のタンパク質を得ることに成功した。次に、in vitroにおけるATPase活性を測定したところ、精製したヒトミダシン全長タンパク質のATPase活性が確認できた。これまでに出芽酵母および分裂酵母のミダシンの構造情報が報告されているものの、ヒトを含めた高等生物のミダシンがどのような構造をとっているかは不明であるため、現在、ヒトミダシン全長タンパク質の構造をクライオ電子顕微鏡を用いて解析している。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
RSC Chemical Biology
巻: 1 ページ: 56-59
10.1039/D0CB00029A