研究課題/領域番号 |
18K19139
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
阿部 郁朗 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (40305496)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 生合成 |
研究実績の概要 |
ヒト由来の嫌気性細菌は、腫瘍周辺環境の嫌気的環境で増殖する性質を持つため、プロドラッグ-酵素療法の遺伝子のベクターとして注目を集めている。しかし、複雑な骨格の低分子生産システムを持つ微生物における遺伝子クラスターの発現の手法が、ガン治療に応用された例は未だ存在しない。本研究では、ヒト由来の嫌気性細菌であるビフィズス菌Bifidobacteriumを宿主として抗ガン化合物の生合成遺伝子発現システムを構築する。また、疾病治療を目的として、ヒト由来細菌代謝物の構造決定、機能解明に取り組む。本研究では、遺伝子発現のターゲットとして、海洋性放線菌由来の抗腫瘍性スルホンアミド化合物アルテミシジンの生合成遺伝子クラスターをクローニングし、それを異種発現系に導入することで、抗腫瘍化合物の微生物生産系を構築した。アルテミシジンは既存のポリケタイド、ペプチドなど、どの二次代謝物ファミリーにも属さないアルカロイド化合物であり、新規性の高い報告となった(Hu et al. Nat. Commun. 10, Article number: 184 (2019))。現在、その生産量向上のため、前駆体の同定、発現系に蓄積する中間体の取得、構造決定を試みている。また、ヒト感染性放線菌であり、ノカルディア症の原因菌であるNocardia属細菌の代謝物解析を行い、その中から、新規芳香族化合物4種、不飽和脂肪酸1種の単離構造決定を行った。今後、これらの代謝物の生理作用について精査し、Nocardiaが人に感染する際の、これら化合物の役割について試験する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細菌を用いた新規ドラッグデリバリー手法の確立のために、ヒト共生細菌を用いた二次代謝産物生産法とその機能解明が重要となる。現在までの研究において、放線菌由来抗腫瘍性化合物の生産系を確立し、他微生物での発現系の構築に向けた準備段階は終了した。これらの遺伝子、発現手法を応用することで、 Bifidobacteriaでの発現手法の確立、腸内へのドラッグデリバリー手法を確立する。また、ヒト感染性放線菌Nocardiaの代謝物解析を行い、芳香族化合物、不飽和脂肪酸を単離した。これら化合物の生理機能は未知であり、非常に興味深い。Nocardia族放線菌のゲノムシーケンスより、候補生合成遺伝子をすでに見出しており、これらを解析することで、その生合成経路に関する知見を取得している。芳香族化合物については、II型ポリケタイド合成酵素によって合成されることが予想されるが、これらの生合成遺伝子はNocardia細菌ゲノムに広く分布しており、重要な生物機能を有することが予想される。これらを物質生産に用いることで、生合成経路を用いた生物、生理活性化合物の生産を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
Bifidobacterium発現系の構築のために、形質転換能に優れたBifidobacterium longum 105-Aを宿主系に、pAV001の複製oriを用いて、文献に従って形質転換を行う(Hamaji, Y. Biosci. Biotechnol. Biochem. 71, 874, 2007)。すでに当研究室によって構築が終わっているアルテミシジンの発現ベクターに遺伝子組替えを行うことで、容易にBifidobacterium発現ベクターの構築を行う(Hu et al. Nat. Commun. 10, Article number: 184 (2019))。得られた形質転換体の代謝物をHPLC分析することによって、物質生産を試験する。他の細菌由来抗腫瘍化合物ファミリーについても異種発現物質生産系を構築し、ドラッグデリバリーの系に応用する。Nocardia代謝産物の生合成について、異種発現、遺伝子破壊の遺伝子操作系を用いて、その生合成酵素を同定する。得られた代謝物、中間体について、ヒト細胞や病原性微生物などへの生理、生物活性を調べ、そのヒト感染への影響を試験する。その他、ヒト共生微生物の二次代謝クラスターを運搬するベクターやトランスポゾンに注目し、そのDNA配列をプローブとした二次代謝遺伝子の探索や機能解明について取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 有機化学、生化学試薬など消耗品のストックがあり、消費が予想外に少なかった。 (使用計画) 有機化学、生化学試薬、ガラス、プラスチック器具など消耗品の購入に充てる。
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