研究課題
本研究ではヒトを含めた脊椎動物でのみ特異的に見出される、mRNAの5'末端に起こる化学修飾N6-メチルアデノシン(始端m6A)のメチル化修飾酵素CAPAMの機能的解明を目指す様々な生化学的解析を実施した。概要としては、(1)CAPAMの触媒メカニズムと基質mRNA認識機構の理解のための14C標識S-アデノシルメチオニンをメチルドナーとしたin vitroメチル化アッセイによりmRNA基質に対する速度論パラメーターを導出し、始端m6Aを受けるアデノシンのリボースへの2’-O-メチル基(cap1構造)がm6A化の促進に重要である性質を見いだした。またmRNAの長さは6塩基程度必要であること、2番目以降の塩基配列はメチル化効率に影響しない性質を見いだした。(2)過酸化水素ストレス刺激下においてCAPAM KO細胞における増殖能の低下を見いだした。(3)共同研究により細胞内の翻訳中リボソームのスナップショットが得られるリボソームプロファイルイングを実施し、A開始塩基型のmRNAはm6A修飾を受けることで翻訳効率を上昇させる傾向を見いだした。一方でトランスクリプトームワイドなmRNA転写パターンの変動やmRNA安定性の変動は見いだされなかった。(4)共同研究、により新規ヘリカルドメインを持つCAPAMの結晶構造解析に成功した。CAPAMに結合した基質mRNAの始端A部分はdisorderにより観察されなかったが、m7Gキャップを特徴的に認識する構造的基盤の理解が得られ、構造に基づく変異体解析により、m7Gキャップ構造を認識する分子基盤を解明した。
2: おおむね順調に進展している
計画していた生化学的研究を随時実施し、新規修飾酵素と始端修飾が持つ特徴的な性質の解明にもつながった。またその成果を論文として発表した。
これまで研究対象であるmRNA始端修飾の責任酵素CAPAMを同定し、その喪失による細胞内遺伝子発現プロファイルへの影響や細胞生育への影響を評価したが、その間をつなぐメカニズムについて未解明な部分が多く残されている。特にA開始塩基型のmRNAがm6Aを持つことで翻訳効率を上昇させる機構について、その制御因子や詳細なメカニズムの解明を目指す研究を進めたい。
実験系に既存の環境を十分に活用できていることに加え、同定した遺伝子由来の組み換えタンパクの取得により生化学的解析や、ゲノム編集で取得したノックアウト細胞の継続的培養による表現型探索などを集約的に行えたことや、また次世代シーケンスのためのサンプル調製や解析依頼先を共同研究により最適化することでリソース消費の効率化が成された。翌年度も当該年度の成果を元に生化学的解析を幅広く行う計画である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Science
巻: 363 ページ: eaav0080
10.1126/science.aav0080
生体の科学
巻: 69 ページ: 398-399
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/soe/press/setnws_201811270918295542170205.html