研究課題/領域番号 |
18K19142
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
大栗 博毅 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80311546)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | アルカロイド / DNA / 共有結合複合体 / 構造活性相関 / グアニン / アルキル化 / 中分子 |
研究実績の概要 |
当該年度の目標とした合成リガンドとDNAとの相互作用解析を検討した。天然から単離されたテトラヒドロイソキノリン(THIQ)アルカロイドは五環性骨格の両端にキノンまたはヒドロキノン構造を有する。一方筆者らの研究グループで最近開発した化学-酵素ハイブリッド合成法では、五環性骨格の両端がいずれもフェノールである非天然型類縁体(C5デオキシアナログ群)の短段階合成が可能である。 フェノールを有する新規リガンド群のDNAアルキル化能を調査した。種々の配列を有する15塩基対のDNA二重鎖に対して合成リガンドを作用させ、電気泳動によりアルカロイド-DNAの共有結合複合体の形成を解析した。今回合成したリガンド群(C5デオキシアナログ群)が配列選択的にDNAをアルキル化することを確認し, キノン構造を有する天然物(シアノサフラシン B) よりも強力なDNAアルキル化能を発揮する分子の創製に成功した。合成リガンドの五環性骨格1位に様々な置換基を導入した非天然型リガンド群を合成し、構造とDNAアルキル化能との相関を検討した。その結果、立体障害の大きい置換基や長鎖アルキル基を1位側鎖に導入すると、THIQアルカロイド類のDNAアルキル化能が低下することが分かった。 更に、アルカロイド-DNA共有結合複合体にシアン化カリウムを作用させると、DNA二重鎖とアミノニトリル基を有するアルカロイドを再生できることが分かった。これにより、THIQアルカロイドとDNAの共有結合形成/切断を可逆的に進行させる実験条件を確立することができた。 これらC5デオキシアナログ群の分子設計・化学-酵素合成・DNA二重鎖とのアルキル化/脱アルキル化についての一連の研究成果をBioorg. Med. Chem. Lett. 誌へ投稿し、ごく最近受理された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
化学-酵素ハイブリッド合成したC5デオキシアナログ群が天然物シアノサフラシンBよりも強力なDNAアルキル化能力を発揮することを見出した。アルキル化を担うC21位アミノニトリル近傍に位置するC1位の置換基を改変したアナログ群を創製し、リガンド構造とDNAアルキル化能との相関について重要な知見を蓄積することができた。更に、アルカロイド-DNA共有結合複合体に対して、シアン化カリウムを作用させるとグアニンとアルカロイドの結合を切断し、DNA二重鎖とC21位アミノニトリルを有するリガンドを可逆的に再生できる実験系を開発することができた。これらの成果を速報論文で公表予定である(Bioorg. Med. Chem. Lett. 印刷中)。 当初、リガンドを磁気ビーズへ固定化するため、C1位へのリンカー導入を計画していたが、今回の研究で他の部位へのリンカー導入を検討することが必要になった。
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今後の研究の推進方策 |
THIQアルカロイドの他の部位についても非天然型を導入し、アルカロイド構造と核酸アルキル化能との相関を蓄積する。アルキル化部位となるグアニン残基のHOMOや求電子剤となるC21位イミニウムカチオンのLUMO を考慮して、速度論的な観点から核酸アルキル化能や配列選択性への理解を深める。本系ではTHIQアルカロイドとDNAとの共有結合が可逆的に形成/切断されるので、複合体のX線結晶構造解析や等温滴定型熱量測定(ITC)を検討し、熱力学的な観点から配列選択性を説明し得る実験データを積み重ねる。 合成リガンドの構造とDNAアルキル化能との相関をより簡便に手早く評価できるシステムを構築する。膨大な数の核酸配列の中から最善・最適のアルカロイド-核酸の組合せを探索する系を確立する。アルカロイド/核酸単独の系と比べ,三次元構造の複雑性・多様性を飛躍的に増大したアルカロイド-核酸複合体群を創製する。これらと特異的に相互作用するタンパク質(核内受容体,転写制御因子等)を同定する。アルカロイド群の核内移行能力,多点相互作用による分子認識能力を顕在化させ,アルカロイド-核酸-タンパク質の三成分複合体を形成させる。アルカロイドと核酸(DNA/RNA)を組み合わせ,核内のタンパク質の機能を変調制御する分子技術を開拓する。転写やエピジェネティクスに関連するケミカルバイオロジーの新展開につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、化学ー酵素ハイブリッド合成法により、DNAをアルキル化するリガンド群の開発に注力した。その結果, DNAーアルカロイド共有結合複合体の可逆的な相互作用についての研究成果を速報論文としてBioorg. Med. Chem. Lett. 誌へ掲載することができた。この研究の途上で、①化学ー酵素ハイブリッド合成法による更なる構造多様化方法の開発に目処がつき、また、②酵素による骨格構築とは相補的なde novo 化学合成により、骨格を多様化した核酸アルキル化リガンド分子群を効率的に合成できる新規知見を見出した。これにより、次年度前半までにDNAをアルキル化する新規構造リガンド群を創製できる見通しがついたので、DNAとの相互作用解析実験に今年度使用予定だった経費の一部を来年度に繰越した。次年度は、構造を多様化した合成リガンドの活性評価を系統的かつ集中的に実施し、本助成期間内に最大限の成果を挙げられるように予算を執行した。
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