世界人口の爆発的な増加や地球規模での環境変動により、食糧の需給バランスは大きく崩れつつある。こうした状況に対応するため、環境に合わせた農作物・品種の迅速な作出法の開発が急務である。育種による新品種の開発はその基盤的技術であるが、花芽の形成(花成)に至るまでの年月が律速となっている。植物種によって花成の時期は大きく異なり、桃栗3年柿8年と言われるように発芽してから数年間花の咲かない幼若期をもつ植物も知られている。これは農業目的の育種に限らず、植物研究全般にわたる課題である。この問題が解決されれば、あらゆる植物研究が加速し、農学や植物科学が大きく変容することが期待される。 本申請課題では、この植物科学が抱える根本的問題に化学的視点から挑戦した。花成の仕組みを分子レベルで調節し、その時期を大幅に早める化合物は、交配にかかる時間の短縮を可能にし、育種スピードの飛躍的向上につながる。また、花のつく時期や数は実のつき具合に直接影響を及ぼすため、これを制御することは農業の効率化につながる。さらに、交配や継代は、植物科学においても必須の操作であり、花成を早める手法は農業のみならず植物科学の幅広い分野に波及効果をもたらす。これらの目的の達成に向け、本研究では近年明らかになってきた花成ホルモン「フロリゲン」の作用機構にもとづき、花成の時期を調節する新規機能性分子の創成を目指した。その結果、通常5年程度かかるキウイの花芽形成を、発芽後わずか3ヶ月で誘導する化合物の開発に成功した。
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