研究課題/領域番号 |
18K19147
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松島 綾美 九州大学, 理学研究院, 准教授 (60404050)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 発現制御 / 生体分子 / 生理活性 / 受容体科学 |
研究実績の概要 |
高齢者に発症することが多いパーキンソン病は、脳内のドパミン不足により生じる疾患の1つである。しかし、対症療法としてドパミンを補うための薬しか存在せず、現在でも根治につながる治療薬は見つかっていない。このドパミンを放出するニューロンの分化を促すのが、ヒト核内受容体Nuclear receptor related 1 (Nurr1)である。申請者は、最近、核内受容体Nurr1の転写活性を変化させる化合物があることに気付いた。本研究課題では、将来的にはNurr1リガンドを用いた、Nurr1の活性制御によりドパミンニューロンを新生するという新規分子メカニズムに基づくパーキンソン病を根治するための治療薬開発に挑む。 第二年度である本年度は、初年度にNurr1の活性を指標としてスクリーニングを実施して得られた化合物について、初年度に用いた神経細胞分化のモデルとして古くから使われるPC12細胞に加えて、 ヒト神経芽細胞腫に由来するSH-SY5Y細胞を用いた化合物の影響の解析を行った。影響の評価法としては、初年度同様に神経突起伸張を比較解析した。その結果、ほぼPC12の場合と同様に、突起伸張を抑制するものが多く、促進するものも少数あった。さらに、Nurr1タンパク質の発現を解析するために、ウエスタンブロットを実施した。なお、初年度に継続してより高分解能が得られる結晶の作製を試みた。しかし、詳細な構造解析に適応できる良い結晶を得るには至らなかった。現在、さらに条件の最適化を行なっている。さらに、Nurr1に結合する化合物の新しいスクリーニング系を構築するために、転写共役因子の配列に基づくペプチドを設計するところまで実施した。最終年度となる第三年度には、神経突起成長に影響を与える化合物について、その分子メカニズムに迫る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三年計画の第二年度である本課題研究は、年度後半のコロナウイルス感染拡大による想定外の納品遅れなどにより、概ね計画通り順調に進展してはいるものの、後半に予定していた化合物の試験については、計画の遅れが見られた。細胞核の中で転写因子として働く核内受容体の多くは、ホルモンなどの内在リガンドが存在する。しかし、本研究対象のNurr1は、リガンドの結合なしではじめから高い転写活性を示す、いわば自発活性化型の核内受容体である。しかも、内在リガンドは見つかっていない。このような核内受容体は、レポーター遺伝子発現システムにおいて、常に遺伝子発現を活性化してしまうため、レポーター遺伝子の安定発現株を用いるスクリーニングは不適切である。そこで、Nurr1のみを安定安定発現する細胞株を作製、これを用いて化合物探索を実施し、これまでに約50化合 物がNurr1の転写活性を変化させることを見出した。そこで、今年度は、これらの化合物について、初年度のPC12細胞に加えて、ヒト神経芽細胞腫に由来するSH-SY5Y細胞を用いた化合物の効果の解析を行った。影響の評価法としては、神経突起の長さを比較解析した。その結果、突起伸張を抑制するものが多く、促進するものも少数あった。現在、これらの一つに注目し、この神経伸長に影響を与える分子機構解明を目指している。また、今年度も詳細な構造解析に適応できる良いNurr1結晶を得るには至らなかった。現在、さらに条件の最適化を行なっている。このように、納品の遅れなどで研究計画の遅れはあるものの、現在のところ、研究計画遂行上の甚大な問題は生じていない。
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今後の研究の推進方策 |
三年計画の最終年度となる次年度は、初年度および第二年度に得られた、神経細胞モデルとして使用されるPC12細胞およびヒト神経芽細胞腫由来のSH-SY5Y細胞の神経伸長試験で伸長抑制あるいは促進が得られた化合物について、両方の試験系で最も変化が大きい化合物に標的を絞り、その分子機構の解明を目指す。なお、納品が遅れた化合物については、納品され次第試験する。伸長抑制あるいは促進には、数々の因子が 考えられるため、適切な作業仮説を打ち立て実験を実施する必要があり、文献もさらに網羅して調べ上げる。 さらに、影響が見られる化合物については、直接Nurr1に結合するのか、細胞内に存在する何らかの介在因子を介してNurr1に作用するのかを調べるために、生体分子相互作用解析に用いられるBiacoreおよび等温滴定型カロリメトリ(iTC)を用いた実験を計画し、実施する。これらの実験では、細胞を用いないため、単独での相互作用が比較解析できる。低分子の結合を効率よく試験するための相互作用解析系の構築を目指し、そのために使える分子ツールとなるペプチド候補について実際に合成し解析する。次年度も引き続き、こうした化合物を結晶作製の際に添加することにより、分解能を上げること ができるか、検討する。こうした実験により、将来的にパーキンソン病治療薬の創製に貢献できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、当初より実験効率および申請者の研究に関わる海外出張の計画予定を考慮して、年度後半に集中して多数の新規化合物の試験をまとめて試験する計画にしていた。しかし、コロナウイルス感染拡大の影響により、試験予定の複数の化合物や、関連して必要となる高価な試薬、器具類の納品が本当に想定外に遅れる事態となり、それに伴い、試験が予定よりかなり大幅にずれ込んだ。そのため、次年度の使用額が生じた。これについては、遅れるものの納品される見込みであるので、次年度中には必ず試験できるので問題ない。このように、次年度使用額が生じた理由は適切かつ実に不可避のものであり、化合物の入手に時間が必要となっているものの、全体計画としては研究進展にもいかなる問題も生じていない。これに伴い、実験が当初予定より遅れているものの、遅れは状況が改善され次第、すぐに取り戻せる見込みである。ついては、コロナウイルスの感染拡大という想定外の事態が、早く終息することを切に願い、実験が迅速にできるように準備する次第である。このように、全ての予算は適切に使用予定されており、全く問題はない。
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