研究実績の概要 |
芳香族化合物は一般に芳香族安定化を有している。このため通常の芳香環上での反応は、いったん芳香族性を失う反応が起こった場合でも、芳香族性の回復を駆動力にした反応が進行し、形式的には置換反応の生成物を与える場合が多い。このような背景のもと、我々は蛍光色素の開発研究の最中に、芳香環がいとも簡単に崩壊する現象に結構な頻度で出くわした。この芳香環の崩壊を伴う異常反応の中身を理解できれば、崩壊反応を積極的に利用した効率的な化学変換法の開発が達成できると考えられる。今回、ナフタレン環の崩壊を伴う反応に焦点を置き、(1)芳香族ラクトン型化合物と有機金属試薬とのマイケル付加型の反応、(2)二枚のナフタレン環から芳香環の崩壊を伴うフェナレン環形成を鍵反応とした、オーキサルスロン類の全合成研究を展開した。(1)の反応ではナフトラクトンにn-ブチルリチウムが反応する際には、通常のカルボニル基への求核反応が進行するのに対し、sec-ブチルリチウムの場合にはナフタレン環の崩壊をともなう、1,6-付加が進行することが分かった。この異常マイケル反応が進行する理由を精査したところ、n-ブチルリチウムの場合には極性反応、sec-ブチルリチウムの場合には一電子移動経由の反応が進行するためと考えられた。(2)については、オーキサルスロン類の全合成研究を中心に行った。その結果、ビナフチルケトンからのナフタレン環の崩壊を用いてフェナレノン環を構築する方法を鍵とした合成経路で、目的のオーキサルスロンA-D、 FR-901235、およびラメリコル酸無水物の初の全合成を達成した。
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