研究実績の概要 |
本研究では、がん細胞内で低下していると考えられる「カリウムイオンが核酸非二重らせん構造の形成を調節し、がんの発症、進行を制御している」という新しい仮説を提示し、証明することを目的とする。そのために、各々の年次目標を次のように設定する。 1) 細胞内環境の変化に応じた非二重らせん構造の形成を知る研究 正常細胞、疾患細胞のモデルとなるような擬似細胞内環境をin vitroで構築し、四重らせん構造 (G-四重らせん構造、i-motif構造)、三重らせん構造などの非二重らせん構造の安定性を定量的に解析する。 2)カリウムイオン-非二重らせん構造相互作用による遺伝子発現制御機構を示す研究。 1)によって得られた細胞内の環境変化と非二重らせん構造の構造安定性パラメータをデータベース化する。得られたデータベースを基に、がん関連遺伝子上で非二重らせん構造を予測し、がん進行過程における核酸構造を予測し、核酸構造の役割を解明する。 2018年度は、1)の研究を遂行し、試験管内、細胞内において、細胞内のカチオンや分子イオンが核酸構造安定性に及ぼす影響を明らかにできた(Biophys. Rev., 1-10 (2018), Nucleic Acids Res., 46, 8, 4301 (2018)など)。また、非二重らせん構造形成が、転写反応の効率や、転写産物RNA及び鋳型DNAの構造を変化させることも見出した(Anal. Chem., 90, 11193 (2018)、Bull. Chem. Soc. Jpn., 92, 3, 572-577 (2019))。さらに、(2)として細胞のがん化とその進行にともなった細胞内の環境の変化が、がん遺伝子を基にしたモデルDNAの転写量を制御していることを見出した(J. Am. Chem. Soc., 140,642 (2018)、日刊工業新聞、神戸新聞に掲載)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2018年度は、(1)がん細胞内のDNAを知る研究及び(2)遺伝子発現を制御する研究を行った。 (1)として、細胞内のイオン環境変化に注目し、細胞内の分子クラウディング環境下において、四重らせん構造(G-四重らせん構造、i-motif構造)、三重らせん構造などの非二重らせん構造の安定性を定量的にした。その結果、生体内の代謝産物であるコリンイオン共存下ではカリウムまたはナトリウムイオン溶液中と核酸二重らせん、三重らせん、四重らせん構造は大きく異なることを見出した (Biophys. Rev., 1-10 (2018), Molecules, 23, 2889 (2018))。また、構造学的解析によって擬似細胞内環境では四重らせん構造のテール部位の塩基のスタッキング相互作用が変化することも見出した(Nucleic Acids Res., 46, 8, 4301 (2018)など)。さらに、転写反応では、非二重らせん構造と転写産物が相互作用し、三重らせんが形成されることや(Bull. Chem. Soc. Jpn., 92, 3, 572-577 (2019))、転写産物RNAの構造を変化させ、遺伝子発現へ影響していることを示唆する結果を得た(Anal. Chem., 90, 11193 (2018))。 (2)として、細胞内で内在性DNA四重らせん構造を解析した結果、初期がん(MCF-7)中では四重らせん構造が観測されたが、悪性度の高いがん細胞(MDA-MD-231)内では、四重らせん構造が減少した。そこで、がんの進行に重要なc-myc遺伝子の四重らせん構造を形成する部位を基にしたモデルDNAを細胞内に導入し、転写量を解析した結果、悪性がん細胞においてモデルDNAからの転写量が増大した(J. Am. Chem. Soc., 140,642 (2018))。
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