研究課題/領域番号 |
18K19153
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
三好 大輔 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (50388758)
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研究分担者 |
川内 敬子 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 准教授 (40434138)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | mRNA / 四重らせん構造 / 液液相分離 / ストレス顆粒 |
研究実績の概要 |
細胞質に存在するストレス顆粒は、RNAの運搬、局在、蓄積、保護、分解など、RNAの運命を調節し、細胞が受ける様々な外部刺激に対応している。mRNAとタンパク質からなるストレス顆粒の特筆すべき点は、分子環境に依存した顆粒形成と解離の可逆性にある。しかし これまでの研究では、ストレス顆粒の環境応答性と可逆性を生み出す分子機構は明らかではない。 注目すべきことに、ストレス顆粒に含まれるタンパク質(顆粒タンパク質)はmRNA四重らせん構造に結合可能であり、さらに、ストレス顆粒に含まれるmRNA(顆粒mRNA)の多くは 四重らせん構造を形成できる。この四重らせん構造は、環境応答能や可逆的多量体化能を有する。そこで本研究では、顆粒mRNAが形成する四重らせん構造の環境応答性およびmRNA四重らせん構造と顆粒タンパク質の相互作用を、細胞を模倣した分子環境で定量解析し、mRNA四重らせん構造の分子環境依存的構造変化とストレス顆粒のダイナミクスの相関を化学的に解明することを試みる。最終的には、外部刺激や細胞内環境因子でmRNA四重らせん構造を調節し、ストレス顆粒の合理的制御を目指している。 これまでの研究から、顆粒形成のモデル実験系を、オリゴ核酸(RNA及びDNA)とペプチドを用いて構築することに成功した。核酸鎖の塩基配列と二次構造を系統的に設計して、顆粒形成能を検討したところ、四重らせん構造を形成する核酸鎖のみが顆粒を形成することが示された。同時に、mRNA四重らせん構造を選択的に結合する光増感剤を見出した。この化合物に光を照射することで、標的とするmRNAを選択的に切断することも可能となった。さらに、活性酸素が細胞内で産生されることで、ストレス顆粒が形成され、顆粒内に四重らせん構造と顆粒のマーカータンパク質が共局在することも確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ストレス顆粒形成を詳細に解析するために、試験管内でモデル系の構築を進めた。RNAとしては、天然に存在するmRNAの四重らせん形性部位を用いた。タンパク質として、顆粒タンパク質名で四重らせん構造と結合すると考えられているRGGドメインを含むモデルペプチド(RGGペプチド)を設計・合成した。種々の四重らせん構造形成RNAとRGGペプチドと混合することで、濁度が増大したことから、液液相分離現象が引き起こされ顆粒が形成されることが示された。興味深いことに、RNAのみならず四重らせん構造を形成するDNA鎖においても顆粒形成が確認された。一方、四重らせん構造を形成しない核酸鎖(RNA及びDNA)では顆粒形成が観測されなかった。さらに、四重らせん構造を安定化させる分子環境においては、顆粒形成が促進されることも確認された。これらの結果から、顆粒形成における四重らせん構造の重要性がモデル実験系において確認された。これらの進捗は、当初の研究計画をほぼ完全に達成しているといえる。 さらに、細胞のストレス応答機構として形成されるストレス顆粒を惹起するために、細胞に導入した光増感剤(光照射によって活性酸素を発生させる化合物)と光照射による活性酸素の産生が有用であることが確認できた。また、光照射によって活性酸素非依存的に、mRNAが形成する四重らせん構造を選択的に破壊する方法も構築できた。本方法を用いることで、細胞内外において顆粒内の四重らせん構造を破壊し、顆粒形成を阻害することが可能になると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
研究初年度に構築した試験管内で構築したモデル実験系を用いて、核酸鎖の構造とその熱力学的安定性と顆粒形成の相関を検討する。研究計画に沿って、顆粒の制御方法として、細胞内環境因子の顆粒形成に及ぼす効果を系統的に調査する。環境因子以外にも、四重らせん構造に対するリガンドや、相補鎖などを用いて、四重らせん構造を変化させて、顆粒形成を合目的的に制御する方法を構築する予定である。 また研究初年度には、細胞内での顆粒形成を惹起する方法と可視化する方法も構築できた。この方法を用いて、細胞内での顆粒形成を観測し、試験管内モデルで得られる結果と比較する。これにより、モデル実験系の精密化と、細胞内での顆粒形成制御方法の構築を試みる。特に、RNAの四重らせん構造と構造・配列選択的に結合できる光増感剤を同定することができたことから、光照射による顆粒形成の合目的的制御が可能になると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
顆粒形成モデル実験系を構築する際に、研究開始前には、核酸(RNA及びDNA)とペプチドに関してより多くの配列や二次構造を検討する必要があると考えていた。特にRNAとペプチドに関しては、合成及び合成試薬が高価であるため、比較的多くの物品費(消耗品費)を計上していた。しかし、当初の目論見よりも迅速に顆粒モデル実験系の構築が可能であったことから、当該年度の物品費の実使用額が抑えられた。 次年度においては、モデル実験系での系統的な検討に、より多くの核酸鎖とペプチドが必要になると考えられる。また、細胞内における顆粒の可視化に利用する抗体は、生合成と活性が一定する状況になく、抗体の調製に比較的多くの試薬を必要とすると考えられる。このような点において、次年度使用額を執行していく計画である。
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