研究課題/領域番号 |
18K19154
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 克典 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (00403098)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 高分子 / 糖鎖 / 有機合成化学 / 生体内合成化学治療 / 金属触媒反応 |
研究実績の概要 |
報告者はこれまでに、生きているマウス内で高選択的かつ迅速に疾患臓器をターゲティングする糖鎖アルブミンDDS(ドラッグデリバリーシステム)を開発している。さらにこのDDSに対して金(III)触媒を担持することにより、望む臓器で選択的に金触媒反応を実現している。この独自の技術を展開して、本年度は次の2点に絞って生体内でのクラスター形成や重合反応によるがん治療の検討を行った。 (1)Au触媒によるがんでの生理活性分子クラスター形成による治療 通常がんに対して、がん抗原やレセプターを強く認識する生理活性分子や薬剤を作用させることにより、がんを治療する。しかし、細胞を使用した研究では有効性が確認されているものの、動物レベルでは、薬剤の有効濃度が薄まるために顕著な効果が得られることが少ない。そこで報告者は、がんで選択的に薬剤をクラスターさせることができれば、動物内でも効果的にがん治療が可能ではないかと考えた。そこで、がんを認識する糖鎖アルブミンを用いて、まずヌードマウスに播種したがんにAu(III)触媒を担持した。次いで金触媒に反応する官能基を有する生理活性分子を作用させた。目的とする金触媒反応を進行させて、がんで直接、生理活性分子のクラスターを形成させることにより、治療することに成功した。 (2)Ru触媒によるがん付近での生理活性分子の重合反応による治療 報告者は、上記の金触媒の手法を他の遷移金属触媒にも展開することで、生体内で様々な金属触媒反応が行えることを見出した。そこで、フラスコ内で確立されている各種の金属触媒による生理活性分子や薬剤の重合反応を検討した。しかし、多少の重合が進行するものの、金属触媒の反応場の空間が小さいために、現在用いた系では効果的な重合が行えないことが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金触媒による生理活性分子や薬剤のクラスター形成を動物内で実現し、がん治療に繋げることができた。動物内でのクラスター形成を治療に展開できることを世界で初めて明確に示した例となった。一方、一般的な遷移金属触媒を用いた重合反応の成功には至らなかったものの、報告者が開発した反応場のscope and limitationを具体的に知ることができた。この反応場は次年度から、さらに生物学的、工学的、あるいは有機合成的に拡張することが可能である。以上のことから、研究課題は当初の計画通りに進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度に実現した生体内での遷移金属触媒反応によるクラスター形成を基にして、平成31年度では下記の点に焦点をおいて検討する。 (2)Ru触媒によるがん付近での生理活性分子の重合反応による治療 報告者が開拓した触媒の反応場を生物学的、工学的、あるいは有機合成的に拡張することにより、重合反応が可能な革新的触媒を開発する。まずは細胞を用いて検討する。さらにマウス内で遷移金属触媒をがん細胞に送り込んだ後、がん付近で官能基したモノマーの重合反応を行い、生理活性分子や薬剤ポリマー分子の生体内合成によるがん治療を試みる。 (3)がんで発生するアクロレインの新規8員環重合反応による転移抑制 報告者は、がん組織でmMレベルで異常発生するアクロレインは近傍の生体アミノアルコールやジアミンと反応し、中間体イミンを経由して8員環ポリマーを与え酸化ストレスを亢進させることを発見した。そこで、生理活性分子や薬剤候補分子にbis-アミノアルコール部位を導入したモノマーをがんモデルに導入し、がん組織付近で過剰に発生するアクロレインと効率・選択的に反応させる。その結果生じるポリマー分子によるがん治療を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
「Ru触媒によるがん付近での生理活性分子の重合反応による治療」に関するテーマにおいて、遷移金属触媒を用いた生理活性分子や薬剤の重合反応を検討したが、金属触媒の反応場の空間が小さいために、本年度に用いた系では効果的な反応を行うことができず一時的に研究を停止させた。そこで、当初予定していた令和1年の研究計画(がんで発生するアクロレインの新規8員環重合反応による転移抑制)に加えて、次年度に再度、反応場を生物学的、工学的、あるいは有機合成的に拡張することで重合反応に挑戦し、全ての計画を遂行する。
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