研究課題/領域番号 |
18K19155
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
津川 裕司 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 研究員 (30647235)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 質量分析インフォマティクス / メタボローム / データサイエンス / 構造推定 |
研究実績の概要 |
新規代謝物の包括的同定手法の開発を目的とし、本研究は遂行されている。2020年度は、COVID-19の影響により研究の遅延はあったものの、特に脂質メタボローム解析(リピドミクス)において2つの成果を出した。1つは、主に動物組織における脂質多様性を包括的に解析する手法開発の成果であり、およそ8000種の脂質分子種の存在を明らかにした(Nature Biotechnology 2020)。また、本手法を植物由来食品(合計156品目)の脂質解析に適用し、800種ほどの脂質分子を食品中からアノテーションすることに成功した(中には、既報にない新規分子の発見も含まれる)。食品ごとの脂質分子種の質およびその存在量を定量的にプロファイリングすることは、今後の機能性食品の開発などにも大きく貢献できると考えられる(Journal of Agricultural and Food Chemistry 2021)。また、植物が創成する100万を超える代謝物、及びそれらがヒト消化器・腸内細菌叢によって更に代謝されてできる化合物多様性を包括的に同定するための手法をまとめた総説を執筆した(現在、査読中)。また、本科研費事業で開発しているMS-DIALプログラムを様々なバイオロジー・実験デザインに適用することで、多くの研究成果を得た。具体的には、抗生剤投与により腸内細菌バランスを変化させた際に生じるメタボロームの差異を解析(iScience, 2020)や赤痢アメーバが栄養体からシスト形成に至る細胞膜の脂質動態を客観的に解析することで新たな創薬ターゲットの知見を得る(mSphere, 2021)などが、主な共同研究成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は昨今のCOVID-19や研究者自身の異動に伴い、研究の進捗が予定したよりも少し遅れた。しかしながら、原著論文として2報採択されるなど、全体として研究はおおむね進展している。(当初は2020年度終了予定であったが、上記理由により一年延長し、2021年度に研究終了とする)
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今後の研究の推進方策 |
2021年度が本研究の最終年度となる。まず、百万種を超える代謝物を創成するとされる植物由来の天然物を包括的に検出・同定するための方法論をまとめた総説のPublishを目指す(現在、1回目の査読が終わったところである)。また、開発したプログラムであるMS-DIALをさらに拡張し、公開されているヒト腸内細菌が産生するメタボローム(質量分析)データの再解析を行う。これにより、過去の文献では見出されていなかった新たな代謝物情報を抽出することで、生物現象の理解深化を試みる。この研究は、2021年度中に論文化し、投稿する予定である。また、メタボローム・リピドーム解析で頻用されているメソドロジー(direct infusion, ion mobility MS, LC-MS)の違いがエピメタボライト探索に及ぼす影響(網羅性・感度など)を客観的に評価する。科研費事業で創成されたMS-DIALはノンターゲット解析のデータ解析ツールとしてもはや世界標準となっている。本プログラムを異なる装置・条件で取得された様々なデータを解析し、その解析結果を評価することで、計測手法が結果に及ぼす影響を明確にし、今後のメタボロミクスデータサイエンスの方針を策定するために有用な情報を得ることを目的にする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は、COVID-19の影響により2020年4-6月の研究環境が世界的に滞った。研究代表者は自身の研究パート(解析プログラムの開発)は遂行できたが、共同研究として各質量分析メーカーに依頼していた依頼分析が、当初予定していた装置が納品されなかったため、予定よりも半年ほど遅れを取った。これに伴い、得られたデータに対する生化学的な検証に必要な消耗品費用等は次年度に持ち越すことが研究を効率よく推進するには適切だと考え、次年度への繰り越しを行った。
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