研究実績の概要 |
本研究では,既知の代謝制御機構では説明できない,新たな代謝産物を「エピメタボライト(Curr. Opin. Chem. Biol. 36, 70-76, 2017)」と定義し,その包括的な同定を行うための質量分析ケムインフォマティクスの技術開発を行っている.本年度は,科研費課題の延長年度として、「新しいマスフラグメンテーションを用いた新規脂質同定法の開発」と「科研費課題の総まとめとなる総説の執筆」を行った。現存するフラグメンテーションの手法(衝突誘起乖離法:CID)では、複合脂質に含有される脂肪酸側鎖の二重結合位置を決定することは困難であった。そこで本研究では、酸素ラジカルを生成させることでラジカル誘起反応を引き起こすことで二重結合特異的なマスフラグメンテーションを引き起こす、oxygen attachment dissociation (OAD)法に着目し、リピドミクス解析へ適用可能かどうかを検討した。検討したところ、CID法とOAD法で取得されるフラグメントイオン情報(MS/MS)を統合して解析することで、脂質クラス(ホスファチジルコリンなど)、脂肪酸鎖長(炭素数や二重結合の数)、そしてω3系もしくはω6系脂肪酸といった二重結合の位置を同時に決定することが可能であることが分かった。また、このCID-MS/MSとOAD-MS/MSスペクトルの統合的に解析するアルゴリズム開発も同時に行い、簡便かつ高精度に高解像度リピドミクス解析が可能なプラットホームの構築も行った。ここまでの研究を現在論文投稿中であるが、その成果をプレプリントサーバー(BioRxiv)に公開している。
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