研究実績の概要 |
合成化学とケミカルバイオロジーは、日本が世界をリードする研究分野の1つである。しかしながら、合成化学分野では、複雑な天然物や医薬品を対象として、合成手法の効率化に凌ぎが削られることが多い。一方、本研究では、独自の合成化学・生命化学を有機的に結びつけあたらしい生物活性分子シードを創出することを主題として、1. 独自の小規模化合物ライブラリーの構築、2. 生物活性評価、3. 構造展開を3本の柱として研究を推進してきた。これまでに、感染症治療薬として有望な2つのシード化合物を見出している。本年度は、合成化学、ケミカルバイオロジー両視点から、より強固な基盤を構築することを目指した。
進展1) 連続不斉点を有する化合物の立体異性体を選択的に得る手法の開発は、ケミカルスペースを拡張するために重要な研究課題である。本年度は、酵素のinduced-fit機構から発想を得て、ニッケル錯体触媒を用いるジアステレオ収束的(3+2)環化付加型反応を開発することに成功した。また、その立体制御機構を明らかにすることができた (J. Am. Chem. Soc. 2021, 143, 9094-9104)。 進展2) また、シード化合物に関しては、触媒反応を駆使することでより詳細な構造活性相関情報を得ることができた。特に、我々が用いるsynthonユニットが活性発現に重要であることがわかった。 進展3) 分子触媒だけでなく酵素反応の検討にも着手し、内因性生理活性物質ミミックの合成へと研究対象を拡張することもできた。
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