研究課題/領域番号 |
18K19161
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
黒河 博文 東北大学, 多元物質科学研究所, 講師 (80359546)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | タンパク質 / 結晶構造 |
研究実績の概要 |
食品に含まれる天然有機物のなかには,ヒトの酸化ストレスセンサーを介して酸化ストレスを消去する酵素群の遺伝子発現を誘導するものがある.この酸化ストレスセンサーが感知する天然有機物の一群は,多様な炭素骨格を有しており,その分子認識は従来の鍵と鍵穴モデルでは説明できない全く新しい機構によると考えられる.つまり,酸化ストレスセンサーが多様な天然有機物を認識するためには,タンパク質分子自体も柔軟な「アンサンブル構造」をとることが必須と考えられるのである.本研究ではタンパク質の「アンサンブル構造」という新しい概念に「酸化ストレスセンサーと有機化合物との複合体形成による準安定状態のトラップ」というアプローチで挑むものである. 研究を進める過程で「アンサンブル構造」が低分子化合物との相互作用によってどのように変化するかを検証するモデル系として,cis型プレニル転移酵素が有用であることがわかった.基質のリン酸基と類似の硫酸イオンが結合した結晶構造と非結合型の結晶構造を比較すると保存されたRXGモチーフの構造が大きく変化していた.cis型プレニル転移酵素結晶の非対称単位には3つのダイマーが含まれていたが,それぞれの三次元構造を詳細に比較することで,本酵素によって分子内部で繰り返される転移反応とリンクしたタンパク質構造変化の詳細を原子レベルで明らかとした.低分子化合物との相互作用によるアンサンブル構造の制御の一端を解明できたことから,今後は計算機シミュレーションと組合せた新たな展開が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
酸化ストレスセンサーのN末端側のセンサー領域について組換えタンパク質の発現・精製・結晶化スクリーニングを行い,結晶は得られたが高分解能の回折データを取得するには至っておらず,結晶化の条件検討を予定していた.しかし,本年度は新型コロナ感染症の拡大により様々な実験を行う上での制限があり,実験計画を大幅に縮小せざるを得ない状況であった. 一方で,近年の計算機の高速化は著しく,本研究も実験科学的なアプローチに加えて,分子動力学シミュレーションおよびマルチスケール法(ハイブリッド型量子化学計算)による解析も並行して実施することとした.そのモデル系としてcis型プレニル転移酵素が適していることが明らかとなり,本年度はその結晶構造解析を論文として発表した.非対称単位には3つのダイマーが含まれていたが,その詳細な比較から,本酵素による転移反応サイクルとリンクした構造変化の詳細を明らかとした.低分子化合物との相互作用によるタンパク質のアンサンブル構造制御の具体例であり,計算機シミュレーションによる解析も引き続き行った.
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今後の研究の推進方策 |
酸化ストレスセンサーのセンサードメインに相当する組換えタンパク質の結晶化条件の改善を進めているが,良好な結晶を得ることが困難であった.一方,近年登場した新しい解析方法であるクライオ電子線回折法ではX線構造解析が困難な数100nm程度の微結晶でも構造解析が可能な場合があることが示されている.クライオ電子線回折法での解析を視野に入れた共同研究の準備が現在進行中である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、感染拡大予防の観点から所属部局における立ち入り制限、出張制限などにより、各種実験施設の使用が制限された。このため、実験に関わる試薬等の購入および実験のための出張などを実施しなかったため、予算の大部分を翌年度に繰り越すこととした。
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