研究課題
食品に含まれる天然有機物のなかには,ヒトの酸化ストレスセンサーを介して酸化ストレスを消去する酵素群の遺伝子発現を誘導するものがある.この酸化ストレスセンサーが感知する天然有機物の一群は,多様な炭素骨格を有しており,その分子認識は従来の鍵と鍵穴モデルでは説明できない全く新しい機構によると考えられる.つまり,酸化ストレスセンサーが多様な天然有機物を認識するためには,タンパク質分子自体も柔軟な「アンサンブル構造」をとることが必須と考えられるのである.本研究ではタンパク質の「アンサンブル構造」という新しい概念に「酸化ストレスセンサーと有機化合物との複合体形成による準安定状態のトラップ」というアプローチで挑むものである.研究を進める過程で酸化ストレスセンサーのセンサードメインに相当する組換えタンパク質の結晶化条件の改善を進めていたが,X線回折実験に適した結晶を得ることが困難であった.そこで,近年登場した新しい解析方法であるクライオ電顕を用いた微結晶電子線回折法(マイクロED)に着目した.マイクロEDはX線構造解析では解析が困難な100nm程度の微結晶でも構造解析が可能である.そこでマイクロEDでの結晶構造解析に向けた共同研究を実施することとした.マイクロEDは登場してから日の浅い新しい手法であることから解決すべき課題も多い.例えば回折データを測定する際の装置の可動範囲の制限により一部データが欠損するミッシングコーンは新規構造解析の際に特に問題となる.今回,分子置換法のサーチモデルを工夫することによりミッシングコーンの問題を回避し、新規低分子化合物の構造解析に成功した.所属部局に年度末にクライオ電顕が導入され,今後の微小結晶解析を行うための基礎を確立した.
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