研究課題
(1)Nobo結晶中化合物の高精度質量分析:Noboのタンパク質結晶にショウジョウバエ抽出物をソーキングし、その後に結晶を取り出して破砕して、Nobo結晶中に挿入された化合物を抽出した。そして、四重極イオントラップ型質量分析装置を用いて、Nobo結晶に存在する低分子化合物の分子量を分析した。抽出物なしの陰性区画と比較して、抽出物存在時にのみ見られた化合物ピークは存在したものの、実験毎の変動が非常に激しく、真に有意とみなせるピークを得ることはできなかった。残念ながら、このアイデアによる内在性基質の質量同定は限界があると判断した。(2)内在性基質候補のケミカルバイオロジー的探索:上述のアプローチによる質量同定は不可能であったことから、逆にどのような化合物であれば基質結合ポケットに入り込めるのかを追究した。具体的には、Nobo酵素活性阻害化合物をまずハイスループットスクリーニングにより同定し、その後、化合物の構造特性を計算科学的に詳細に検討した。その結果、ステロイドを含む複数の化合物が基質結合ポケットに入り込むことを見出した。(3)内在性基質候補としてのステロイドとDmNobo結晶の複合体構造解析:Noboは昆虫ステロイドホルモン生合成制御因子であることを考えると、上述のスクリーニングで得られたステロイド化合物は内在性基質と近しい可能性が期待できた。そこで、同定されたステロイド化合物をショウジョウバエNobo結晶にソーキングさせ、X線回折測定により複合体構造を明らかにした。その結果、一部のステロイドはNoboの特定のアミノ酸残基と強固な水素結合を作ることを見出した。この結果から、同定したアミノ酸残基が今後の内在性基質同定においても重要な評価指標となることが期待される。
3: やや遅れている
当初計画において期待していた質量分析に基づく内在性基質の類推が頓挫したことは、残念なことだった。研究代表者としては、関連分野の専門家とも今後の研究の進捗について議論してきたが、現状の技術レベルでは大きな改善を見込むことは難しいと結論づけた。この結果を受けて、ハイスループットスクリーニングや計算科学的手法による内在性基質の同定を進めているものの、現状では当初期待よりも遅れているとの評価が妥当と考える。
初年度において、代替手段として採用したハイスループットスクリーニングや計算科学的手法によって、ステロイド類がNoboタンパク質と非常に高い特異性を持って結合すること、そしてあるアミノ酸残基を介した結合がNoboの機能にとって重要であることを見出せたことは意義があると考えている。今後は、このアミノ酸残基に相互作用する化合物に注目し、かつ、昆虫に内在する物質をリストアップしながら、内在性基質候補の洗い出しを進めていく。
本来、質量分析によって内在性化合物群の候補が同定された際には、それに該当する多種の化合物を取り揃え、生化学実験や結晶構造解析に用いる予定であった。しかし、質量分析の結果が芳しくなかったため、これらの計画を実施するに至らなかった。2年次においては、ハイスループットスクリーニングと計算科学手法による別戦略によって化合物を新たに絞り込むともに、繰り越した予算を使用して候補化合物を利用した実験へと移行する計画である。
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