研究課題/領域番号 |
18K19164
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
川合 真紀 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10332595)
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研究分担者 |
長野 稔 立命館大学, 生命科学部, 助教 (80598251)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | スフィンゴ脂質 / マイクロドメイン / グリコシルイノシトールホスホセラミド |
研究実績の概要 |
本研究は、植物の脂質をターゲットとした新規のマイクロドメイン可視化プローブを開発することを目的としている。マイクロドメインは細胞膜上に点在する微小な脂質・タンパク質集積ドメインで、植物免疫に関与することが明らかになっている。しかし、これまでに植物特有の脂質で形成される植物マイクロドメインを可視化することができなかったため、植物免疫におけるマイクロドメインの役割の解明は遅れていた。本研究では、植物マイクロドメインの主要脂質であるスフィンゴ脂質の一種グリコシルイノシトールホスホセラミド(GIPC)に結合する毒性タンパク質NLPを改変することにより、植物マイクロドメイン可視化プローブの開発を試みた。これまでに結合能を維持したまま無毒化させた変異NLPタンパク質(mNLP)を作製し、GFPを融合させたGFP-mNLPをシロイヌナズナに処理すると細胞膜に局在することを示している。本年度は、恒常的にマイクロドメインを可視化できるシロイヌナズナを作出するために、シグナルペプチド(SP)とGFPをN末端に付加したSP-GFP-mNLPを35Sプロモーター下で発現させるコンストラクトを作製し、アグロバクテリウムを介してシロイヌナズナに導入した。数個体のT1植物を選抜することができたが、どれも奇異な表現型を示し、GFP蛍光を観察することはできなかった。この結果から、mNLPを大量に発現させてしまうと植物がダメージを受ける可能性が示唆された。 一方、マイクロドメイン構成脂質の1つであるステロールに結合するタンパク質PFOを改変することにより、植物ステロールを標的とするGFP-D4Lを開発した。GFP-D4LにSPを付加したSP-GFP-D4Lを恒常的に発現させるシロイヌナズナを作出したところ、細胞膜のマイクロドメイン構造を可視化できることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物で最も主要なスフィンゴ脂質分子種であるGIPCをターゲットとしたGFP-mNLPを恒常的に発現するシロイヌナズナ形質転換系統の作出は、形質転換体に生育異常を引き起こす可能性が示されたことから再検討が必要である。しかし、スフィンゴ脂質と同じくマイクロドメインの主要構成脂質であるステロールをターゲットとしたGFP-D4Lは、恒常的に発現するシロイヌナズナ形質転換系統を用いて、細胞膜上のマイクロドメインの観察に成功した。本研究の目的は植物マイクロドメインをイメージングするための可視化プローブの開発であるため、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
mNLPがシロイヌナズナで毒性を発揮する可能性があるため、さらに変異を加えることにより、GIPCへの結合能を維持したまま、シロイヌナズナに対しても無毒な多重変異NLPを開発する。これを恒常的に発現するシロイヌナズナ形質転換体を作出し、スフィンゴ脂質由来のマイクロドメインの可視化に取り組む。また、ステロール由来のマイクロドメインの可視化に成功しているGFP-D4Lに関しては、超解像顕微鏡を用いた観察を行うことにより、植物ナノドメインの実態解明に取り組む。さらに、病害応答時の動態観察や、細胞膜に局在する免疫タンパク質の共局在解析等を行うことにより、植物免疫における細胞膜マイクロドメインの役割の解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症に対する対応として、大学での研究活動が制限された時期があった。 これに伴い研究計画の実施に遅れが生じため、研究期間延長を希望した。 本助成金については、計画に記載の実験を遂行するための消耗品類の購入のために使用する。
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