研究課題
栄養塩飢餓と強光ストレスで誘導される超オイル細胞を用いて、ω3に代表される機能性脂肪酸やカロテノイドなどの機能性物質を蓄積した細胞工場(クロレラ・ファクトリー)を作り出すことにある。超オイル細胞の代謝メカニズムも過酷なストレス存在下の細胞動態として研究対象であるが、細胞工場で製造するものの選別から始める。(1)トレボウクシア藻綱を中心にした網羅的な探索で長鎖不飽和脂肪酸とカロテノイドの潜在的な生産力を調べ、(2)長鎖不飽和脂肪酸の場合は、重イオンビーム照射株のなかからEPA(20:5)やDHA(22:6)など付加価値の高い特定の脂肪酸を生産する株を単離する。(3)カロテノイドの場合は、クロレラだけでなくヘマトコッカスも用いてアスタキサンチンをモデルに、強光誘導による特定カロテノイドの選択的産生が可能かを調べる。こうした誘導方法を超オイル細胞に実施することで、カロテノイドをはじめとする脂溶性物質の細胞工場を構築する。まず、トレボウクシア藻綱を中心に分子系統解析を実施することで、(A)トレボウクシア藻綱と緑色植物門の他の綱との関係も含め、カロテノイドと長鎖不飽和脂肪酸という視点で優良種あるいは株をスクリーニングしている。先行収集したトレボウクシア藻26種に関しては、パラクロレラのように偶数系の超長鎖不飽和脂肪酸に加え奇数系の超長鎖不飽和脂肪酸をもつ株や種の単離が可能か文献も含め調査することになっている。(B)重イオンビーム照射によるEPA(20:5)やDHA(22:6)などの特定脂肪酸株の単離が可能かを文献も含め調査する。 (i) のシステイン要求性株の単離に加え、(ii) の他の含硫アミノ酸要求株の単離、 (iii) S欠過感受性株あるいは非感受性株の単離に力を入れる。高度不飽和脂肪酸の微量アッセイ系を確立してスクリーニングのハイスループット化をはかる。
2: おおむね順調に進展している
今回の調査や実験は全て独立栄養条件下と同時に混合栄養と従属栄養条件下でも実施する。また、候補株に関しては、分取用液体クロマトグラフでの濃縮に加え、 一次スクリーニングでTLC解析、二次スクリーニングでGC-MS解析できるようにすることを目標としている。パラクロレラでは超オイル細胞化とほぼ同時にカロテノイド組成の劇的変化が起こる。例えば、ルテインとゼアキサンチンだけで全カロテノイドの90%を占めるようにすることができる。トレボウクシア藻綱のさまざまな種と株で超オイル細胞を誘導し、カロテノイド合成を誘導するとカロテノイドの組成比をさまざまに変えることができるのか確かめる。まずはヘマトコッカスを含む狭義の緑藻とトレボウクシア藻綱含まれる82種の系統樹を作成し機能性優良株調査の指標とし82種を全て収集する方針でスクリーニングを開始している。狭義の緑藻としてヘマトコッカスに関しては27株、トレボウクシア藻綱に関しても目レベルで網羅的に26株をスクリーニング対象として、弱光と強光両方の独立栄養条件下でのカロテノイド蓄積量とオイルの蓄積量を調べている。完全には網羅されたいないが、ヘマトコッカスに関しては27株すべてでアスタキサンチン合成誘導後の蓄積量を調べたが株間で大きな差異があることがわかった。また、ラマン蛍光フローサイトメーターを用いたスクリーニングの可能性も調べている。超オイル細胞の誘導はこれまで独立栄養条件下の強光条件で実施していたが、今回は混合栄養と従属栄養条件下で光照射条件の緩和が認められないか確かめてる。炭素源としては廃糖蜜(モラセス)の利用も考えており、クロレラによるショ糖の取り込みを調べたが問題なく成長することがわかった。こうした試みよって光照射条件を緩和できれば著しいコストダウンが可能となる。
トレボウクシア藻綱に狭義の緑藻を加え分子系統解析を実施することで、スクリーニング対象となった種や株の系統関係を理解しながら、以下の(A)と(B)の実施を目指している。カロテノイドの中でも特にアスタキサンチンに関してはラマン蛍光を利用したフローサイトメーターによるリアルタイム・スクリーニングの可能性もでてきている。(A)トレボウクシア藻綱と緑色植物門の他の綱との関係をカロテノイドと長鎖不飽和脂肪酸という視点でスクリーニングを実施する。先行収集したトレボウクシア藻26種に関しては、パラクロレラのように34:1や36:1といった偶数系の超長鎖不飽和脂肪酸に加え、45:1や47:1といった奇数系の超長鎖不飽和脂肪酸をもつ株や種とカロテノイドを文献も含め調査する。(B)重イオンビーム照射によるEPA(20:5)やDHA(22:6)などの特定脂肪酸株の単離が可能かを文献も含め調査する。重イオンビームの核種(C, Ar, Feなど)とLETを最適化することも重要な課題である。重イオンビーム照射は高等植物では多くの実績があるが、微細藻類の場合どの核種が脂肪酸のバリエーションを効率よく生み出すかはまだ十分分析されていない。こうした点を解明することで、クロレラ類の高増殖性能と安全性を担保に、世界的にニーズの高い乳幼児向け粉ミルクを含め、機能性表示食品への利用を可能とする。本研究の最終目的は、(A)と(B)をメインテーマに、(1)長鎖不飽和脂肪酸とカロテノイドの潜在的な生産力を調べ、(2)付加価値の高い特定の脂肪酸を生産する株を単離し、(3)クロレラだけでなくヘマトコッカスも用いて特定カロテノイドの選択的産生が可能かを調べることで、実用化のための実証実験を行うことにある。このためにはできるだけバイオリアクターに関する国内外の施設状況を詳しく調査研究する必要がある。
1)「ヘマトコッカス藻、アスタキサンチンの日焼け止め~ハイパースペクトルカメラと電顕で見えてきたヘマトコッカス藻の強光回避戦略〜」としてプレスリリースした。2、3)「機能性バイオ研究支援フォーラム」ではResearch TopicsとArchivesとして論文とミニシンポを紹介した。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち招待講演 2件) 備考 (3件)
Microscopy
巻: 68 ページ: 57-68
10.1093/jmicro/dfy142
バイオインダストリー
巻: 36 ページ: 1-11
Algal Res.
巻: 36 ページ: 37-47
10.1016/j.algal.2018.09.022
巻: 35 ページ: 416-426
10.1016/j.algal.2018.09.005
Sci. Rep.
巻: 8 ページ: 5671
10.1038/s41598-018-23854-w
巻: 35 ページ: 9-20
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/pls/research.html
http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/functionalbio/research.html