研究課題/領域番号 |
18K19170
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
邊見 久 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (60302189)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 古細菌 / 生体膜エンジニアリング / 大腸菌 / イソプレノイド / メバロン酸経路 / 膜脂質 |
研究実績の概要 |
我々がすでに構築している、超好熱性古細菌Aeropyrum pernixが有するC25古細菌膜脂質を大腸菌に生産させるシステムを基盤とし、同システムに各種メバロン酸経路を導入することにより、大腸菌生体膜の性質を変化させることを目的として研究を進めた。まずは真核生物型のメバロン酸経路、Thermoplasma型古細菌の変形メバロン酸経路、および同変形経路の一部酵素の基質特異性を変化させ、既知メバロン酸経路の酵素と組み合わせることで構築した人工的なメバロン酸経路を大腸菌に導入し、イソプレノイド生合成を増進させる効果が得られるか確認した。確認のために、評価が容易なカロテノイド色素の生産性を指標として用いた結果、真核生物型メバロン酸経路と人工的なメバロン酸経路によって大幅な生産強化が図れることが分かった。 さらに、超好熱性古細菌A. pernixの研究により、既知のメバロン酸経路とは異なる中間体を経る新奇な変形メバロン酸経路を見出した。同経路は古細菌に広く分布しているため、これを古細菌型メバロン酸経路と命名した。同経路の重要な性質として、イソプレノイド生合成前駆体の生産に必要なATPの量が既知メバロン酸経路の2/3で済む点があげられる。この省エネ型の性質は、古細菌膜脂質を含むイソプレノイド化合物全般の生物生産を行う上で有益な可能性が高い。そこで実際に同経路の遺伝子を大腸菌に導入したところ、指標として用いたリコペンの生産量が増加し、同経路が再構築されたことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、大腸菌への既知メバロン酸経路の導入によりイソプレノイド生産の増進を試みた。その過程で、Thermoplasma目の好熱性古細菌が特異的に有する変形メバロン酸経路の重要酵素、メバロン酸3-キナーゼの基質特異性を改変した変異酵素の作製に成功し、これを利用した人工的なメバロン酸経路の構築にも成功した。同経路の大腸菌への導入は、すでにイソプレノイドの生物生産において盛んに利用されている真核生物型メバロン酸経路と同等の高い効果を有し、大腸菌におけるカロテノイド生産を大幅に向上させた。 さらに、当初は予定していなかった新型の変形メバロン酸経路を超好熱性古細菌A. pernixを用いた研究により発見することができた。同経路はエネルギー消費量が既知メバロン酸経路および上記の人工的なメバロン酸経路に比べて低くて済むという特徴を持っており、イソプレノイドの生物生産において広い範囲で利用可能であり、かつ我々が目的とする超好熱性古細菌膜脂質の生産向上にも有効に使えると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
最優先課題として、新たに見出した古細菌型メバロン酸経路を大腸菌に導入し、それによりイソプレノイド生産の向上が図れるかを確認する。その際、遺伝子発現に各種プロモータを利用したり、遺伝子の配置を変えることで、最適化を行う。カロテノイド色素の生産量を指標として性能評価を行い、もし大幅なイソプレノイド生産向上が達成できた場合には、大腸菌を宿主とした超好熱性古細菌膜脂質の生産系に同メバロン酸経路を導入することで、古細菌膜脂質の増産を目指す。もし期待した通りの生産増加が行えなかった場合には、既知メバロン酸経路、特に我々が開発し、真核生物型経路と同等の効果を有することを示した人工的なメバロン酸経路を導入することで目標達成を狙う。 大腸菌における超好熱性古細菌膜脂質の生産向上に成功したのちに、その生体膜に起きる種々の性質変化を調べる。また、生体膜における大腸菌内在の膜脂質と古細菌膜脂質の比率を定量し、その比率と生体膜の性質の相関を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
予想外の成果として、新奇な代謝経路である古細菌型メバロン酸経路を発見することができ、さらにその性質から代謝工学的な有用性が強く示唆されたため、同経路のイソプレノイド生産への応用に関する研究を優先して実施した。そのため、本研究課題の最終目的である、超好熱性古細菌膜脂質の生産向上に取り組むには至らなかった。したがって、当初予定していた実験の一部が次年度に持ち越され、次年度使用額が生じている。 次年度には超好熱性古細菌膜脂質の生産強化と、それによる生体膜の性質変化を調べる実験を行う予定であり、そのために次年度使用額を利用する。
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