研究実績の概要 |
古細菌特有の膜脂質を大腸菌に生産させることで、生体膜の物性を変化させる「細胞膜エンジニアリング」に取り組んだ。超好熱性古細菌Aeropyrum pernix由来のC25,C25-古細菌膜脂質の大腸菌における生産量を向上させるため、イソプレノイド生合成前駆体の供給経路である、メバロン酸経路、メチルエリスリトールリン酸、およびイソプレノール/プレノール取り込み経路の導入を試みた。その結果として、全脂質量の数%まで古細菌膜脂質の生産量を向上させることに成功した。この取り組みと並行して、我々が近年見出したATP低消費型代謝経路である古細菌型メバロン酸経路を、細胞膜エンジニアリングに応用することに力を注いだ。常温性古細菌である Methanosarcina mazei由来の遺伝子を大腸菌に導入した実験の結果から、古細菌型メバロン酸経路に特異的な酵素であるホスホメバロン酸デヒドラターゼの酸化による活性低下が示唆された。そこで、同酵素を置き換えうる、酸化に強い新奇酵素の探索を進めた。その過程で、酸化耐性はそれほど高くないものの、未培養真正細菌から同酵素を単離することができた。同菌には、ホスホメバロン酸デヒドラターゼおよび、その下流の酵素であるホスホトランスアンヒドロメバロン酸デカルボキシラーゼ遺伝子が存在し、それらの酵素の活性を組換え酵素を用いて証明することができた。真正細菌における古細菌型メバロン酸経路の存在はきわめて稀であり、同経路の進化を考える上で注目すべき発見と言える。
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