研究課題/領域番号 |
18K19173
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤田 祐一 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (80222264)
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研究分担者 |
井原 邦夫 名古屋大学, 遺伝子実験施設, 准教授 (90223297)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | シアノバクテリア / 光合成 / 適応進化 / 従属栄養生育 / ストレス応答 |
研究実績の概要 |
昨年度までの研究で、シアノバクテリアLeptolyngbya boryanaの長期暗所培養によって生じた変異の多くが特定の遺伝子rsbUに蓄積していたことから、RsbUがこのシアノバクテリアにおいて光合成と呼吸の調節に関わる情報伝達系に関わっていることが示唆された。長期培養で生じた形質(光合成生育能の喪失・暗所従属栄養能の促進)が本遺伝子の欠損に起因するのかどうかを確認するために、改めて野生型(元株としたdg5)からrsbUの単独欠損株を単離し、その形質を検討した。rsbU単独欠損株は、光独立栄養条件ではdg5に比べて有意に生育が遅かったのに対し、グルコースを添加した光混合栄養や暗所従属栄養条件では生育が有意に速かった。細胞の光合成活性(酸素発生量)と呼吸活性(暗所での酸素消費量)を比較すると、rsbU欠損株では光合成活性の低下と呼吸活性の向上が認められ、生育の差がこれらの活性の違いに起因すると推察された。この結果は、長期暗所培養に対する適応進化の原因遺伝子の一つがrsbUであることを支持している。さらに、グルコースを添加しない培地で暗所にてインキュベートするという炭素枯渇ストレス条件では、短期(30日まで)処理では野生型と変わらず耐性を示したが、30日以上の長期にわたると野生型に比べ有意に細胞が死滅した。好気明条件下で窒素源を添加しない窒素枯渇ストレスに対しては、両株ともにフィコビリン含量の減少が見られるがrsbU欠損株のフィコビリン減少は野生型よりも有意に速かった。14日間の窒素枯渇処理の後硝酸塩を添加し好気明条件で窒素枯渇からの回復を観察したところ、野生型が直ちに増殖を再開したのに対し、rsbUは2日間の遅滞期を経て増殖を再開した。これらの結果は、RsbUが関与する情報伝達系が炭素および窒素の枯渇ストレス応答に対して一定の役割を担っていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度にはrsbU欠損株のトランスクリプトーム解析を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症蔓延に伴って名古屋大学の警戒レベルが最高となり学生の大学への入構が制限されたため実験の実施が困難な期間が約2ヶ月ほど続いた。加えて、トランスクリプトーム解析のために充分な質のRNA調製の条件検討に予想外に時間がかかったため、本研究課題を1年延長させていただくことにした。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、まず質的に充分なRNAを調製できる条件を確定し、そのRNA試料をもちいてRNA-seq解析を依頼する。その結果から、rsbUが関わる情報伝達系が発現を制御しているターゲット遺伝子群の全貌を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に行う予定であったトランスクリプトーム解析(RNA-seq)ができなかったため、繰越額が生じた。2021年度はこの繰越額でRNA-seq解析を行う予定である。
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