ABCタンパク質はATP依存的な能動輸送体でヒトでは48種類が同定されている。ABCタンパク質には脂質や薬物などの脂溶性化合物を輸送し、生体の脂質恒常性維持や有害な化合物からの生体の保護等の重要な役割を担う輸送体が存在する。本研究の目的は近縁の脂質輸送型(ABCB4)と薬物輸送型のABCタンパク質(ABCB1)を生化学的に解析し、その機能分化機構を明らかにすることにある。2018年度の研究では機能分化機構の要因として基質取り込みゲートに着目し、機能分化に部分的に関与するという予備的知見を得た。そこで2019年度の研究では基質取り込みゲートを薬物輸送体のものと交換した脂質輸送体の変異体に対し、ランダム変異を導入し、より薬物輸送能が向上した変異体を網羅的に探索する実験手法の開発に取り組んだ。 コレステロールは輸送基質として、あるいは機能の調節因子としてABCB4とABCB1と密接に関連する。2019年度の研究ではコレステロールによるABCB1の機能調節機構を詳細に解析するために、精製タンパク質と一定のコレステロールを含有する人工脂質2重膜(リポソーム)再構成系を用いた熱力学的解析を行った。その結果、コレステロールは輸送反応のエンタルピーやエントロピーの値を変化させることで、輸送速度の調節を行っていることを明らかにしつつある。また、生細胞上でABCB1の構造変化を計測する技術の開発にも参画し、ATP結合が構造変化に重要であることを明らかにした。
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