研究課題/領域番号 |
18K19179
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
丸田 隆典 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (50607439)
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研究分担者 |
小川 貴央 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (80603802)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ビタミンC / アスコルビン酸 / デヒドロアスコルビン酸 / システイン酸化 / チオレドキシン / シロイヌナズナ |
研究実績の概要 |
本研究は、植物のアスコルビン酸再生機構の解明を目的とし、1)従来型再生酵素の生理学的重要性の解明とともに、2)新規再生経路の同定を目指すものである。 1)の従来型酵素にはデヒドロアスコルビン酸還元酵素(DHAR)とモノデヒドロアスコルビン酸還元酵素(MDAR)が含まれる。シロイヌナズナには、それぞれ3つおよび5つのDHARおよびMDARアイソフォームが存在する。これらの酵素を欠損させたシロイヌナズナ多重変異株を用いてアスコルビン酸再生への寄与について調べた。その結果、DHARの三重欠損株でさえ野生株レベルのアスコルビン酸再生能力を保持することが明らかになった。この理由について、グルタチオンを介した非酵素的なデヒドロアスコルビン酸還元反応がDHAR機能を相補する可能性を考え、DHAR三重欠損株にグルタチオン欠乏変異を導入した。その結果、ストレス条件の四重変異株ではアスコルビン酸の分解が著しく亢進され、酸化損傷も増大することが明らかになった。一方、通常生育条件では野生株と同程度のアスコルビン酸再生能力を保持し、この理由はMDARや後述の新規経路による相補であると考えられた。また、MDARアイソフォームの網羅的な解析により、いくつかの多重変異株で胚性致死が起こることがわかった。 2)の新規再生経路については、タンパク質チオールを介した反応によって起こると想定している。実際に、培養細胞へのデヒドロアスコルビン酸により濃度依存的なタンパク質酸化が起こること、グルタチオン欠乏下で促進されることを明らかにした。質量分析により酸化タンパク質を検出することで、新規のDHA還元酵素の同定が可能になった。また、タンパク質チオールの酸化還元を介したアスコルビン酸再生は、チオレドキシンシステムと共役すると考えられるため、チオレドキシン還元酵素とDHARの五重変異株を作出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来型酵素の機能解析に大きな進展があり、DHARによる酵素反応とグルタチオンによる非酵素反応の協働がストレス条件でのアスコルビン酸蓄積およびストレス耐性に重要な役割を持つことが明らかになった。また、MDARアイソフォームは胚形成に必要であることも示された。さらに、DHAによるタンパク質酸化がDHA濃度依存的に起こること、グルタチオン欠乏下で促進されることを明らかにした。質量分析装置の故障により、酸化タンパク質の実態を明らかにできていないが、本事業の延長申請を行い、承認されたこともあり、今後、プロテオミクス手法により新規DHA還元酵素を同定可能な状況にある。そのため、おおむね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
質量分析を用いてDHA依存的に酸化修飾を受けるタンパク質を同定するとともに、チオレドキシン還元酵素とDHARの五重変異株の解析により、新規経路のアスコルビン酸再生への寄与を明らかにする。また、従来酵素の機能について、ゲノム編集技術を用いてさらなる多重変異株を作出し、解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の目的の一つは、プロテオミクスによる新規酵素の同定であったが、度重なる質量分析装置の故障により、科学的に十分なデータが揃っていない状況にある。また、他の目的は十分に達成することができたが、研究成果として1報の論文を投稿中、もう1報を投稿準備中である。したがって、補助期間を2020年度まで延長し、当初計画を最後まで全うしたいため。
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