動植物・微生物の生体内色素として自然界に広く存在するキノン類は生体内酸化還元反応や電子伝達を担う重要な化合物である。キノンはその高い反応性のために様々な様式で重合することがわかっており、その重合には色調や分光学的な特性の変化を伴うことが知られている。本研究ではキノン類の重合反応を基本として、アルカプトン尿症の治療・診断法の開発を目指すこととした。アルカプトン尿症は常染色体劣勢遺伝の代謝疾患で、尿中に多量のホモゲンチジン酸が排出される。また体内に蓄積したホモゲンチジン酸の酸化重合により生成する色素が原因で重篤な関節炎を引き起こすことが知られている。しかしながら、本疾患の予防法・治療法は未だ確立されておらず、従来の診断法も課題が多い。そこでまず、アルカプトン尿症の特徴の一つであるホモゲンチジン酸の酸化重合反応を再現することに着手した。様々な条件下でホモゲンチジン酸及びその類縁体の重合反応を検討した結果、ホモゲンチジン酸の酸化体であるベンゾキノン酢酸の反応性が高いことがわかった。この結果から、この酸化体が黒変化の原因物質である可能性が示唆された。また、ホモゲンチジン酸の重合には塩基性条件、好気性条件、温度が関与していることが示された。さらに、重合阻害剤の探索が可能なスクリーニング系の確立を行い、アスコルビン酸がホモゲンチジン酸及びベンゾキノン酢酸の重合を阻害するという分子レベルでの証拠を得ることができた。これらの知見は、アルカプトン尿症の病理メカニズムの解明において重要な手がかりとなりうる。
|