研究課題/領域番号 |
18K19186
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
松藤 寛 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70287605)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | フェニルエタノイド配糖体 / アクテオシド / 生合成経路 / トランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
フェニルエタノイド配糖体(PhGs)は、薬用植物に広く分布し、様々な薬理作用をもつことから、医薬品またはこれらをリード化合物とした創薬利用が期待されている。しかし、代表的な化合物であるアクテオシド(Act)でさえ、生合成経路が不明で、大量発現系が構築されておらず、疾病治療に用いるための量産化が大きな課題となっている。先行研究で、ゴマ草が成長過程で他の植物体と比べ、葉中に多量のActを生産すること(最大12.9%)、また組織培養にて,葉中に存在する他のフラボノイドやイリドイドを生産せず、ActやPhGsのみを生産する培養細胞株を確立することが出来た。そこで、本年度においては、本株を用いてAct生合成経路の解明を試みた。まず、様々なストレス誘導に関連した既知のエリシター5種を用いて、Act生産量に及ぼす影響を調べた結果、ジャスモン酸メチルの添加でAct生産量が処理72h後に5.5倍増加することが判明した。また、クロマト分析よりActのみが増加しており、他の夾雑物の影響を受けずに、Act生合成関連酵素遺伝子のみが高発現誘導されていると考えられたことから、RNA-seq解析に供した。得られた配列データについて、CLC Genomics Workbenchによるde novoアセンブリを行い、62008のContigを得た。増加したContigの抽出及びBlast解析より、Act推定経路におけるTyr代謝経路、Phe代謝経路の関連酵素遺伝子が見出され、さらにhydroxytyrosolの配糖体化に関与するUDP-グルコース転移酵素(UGT)の候補遺伝子が5つ、rhamnose付加に関与するUDP-ラムノース転移酵素(URT)の候補遺伝子を1つ、caffeic acid(caffeoyl-CoA)の付加に関与するアシル化転移酵素(AT)の酵素遺伝子を5つ選抜することできた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
生合成経路推定において、得られる酵素候補遺伝子の理想は1つであるが、網羅的解析において、他の夾雑物が多い場合、夾雑物由来の関連酵素遺伝子も検出するため、候補数が増え、解析が複雑となる。しかし、本研究では、順調に進展したことで、これが1~5つに絞り込めた(類似研究では40~50前後)。数十の候補酵素をクローニングすることは非現実的であり、類似研究では推定酵素の機能解析は行われていないが、本研究ではこれが可能である。このことから、研究は順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
トランスクリプトーム解析より、アクテオシド(Act)の骨格形成に重要な酵素の候補遺伝子(UGT, URT, AT)を絞り込むことができたことから、候補遺伝子より発現した酵素の機能を明示する必要がある。そのため、推定遺伝子配列から酵素をクローニングするとともに、それぞれの酵素活性試験法を確立し、Actを合成できるか検討する。上記したように、未だ解明されていないAct生合成下流における酵素候補遺伝子(UGT, URT, AT)がそれぞれ5個、1個、5個まで絞り込め、さらにこれらのうち、1つのUGT候補遺伝子は他と比べ数十から数千倍発現しており、1つのATは他より数百倍発現している。そこで、まずこれらの候補遺伝子を大腸菌または酵母へ導入し、候補酵素をクローニング後、機能解析を行う。それぞれにおいて生成物の構造を確認し、最終的にActを生産できるか検討する。生合成経路の確認後、Act高発現条件(エリシター、光、温度、酸化ストレス等)をクロマト分析を用いた分析化学的手法、並びにPCRによる遺伝子発現誘導解析(候補として選抜できたUGT, URT, AT)により明らかにする。また可能ならば、酵素阻害剤や他の成分(特に葉中に存在する成分)によるAct生成促進または抑制効果についても検討する。これらを通じて、Actの効率的バイオ生産に関する基礎的知見を得るとともにその生産基盤の確立を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度の人件費を見込まなければならないのかどうかが3月末まで不明であり、次年度に人件費(60万円)を計上した。結果、次年度の物品費の計上が減少(145万円から85万円)し、これを補填するため、申請設備備品の一つであるバイオシェーカー(59万円)の購入を断念した。このことより、41万円の次年度使用額が生じた。 次年度の人件費の必要性がほぼなくなったことから、当初の予定通り申請設備を購入する計画である。
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備考 |
研究成果の一部は、学部で実施されたオープンキャンパス(6月、8月)、大学院生物資源科学研究科全専攻必修科目生物資源科学特論Ⅰ(5月)、他大学特別講義静岡県立大学特別講義月例セミナー(11月)にて、高校生や大学生、大学院生に広く情報提供した。また、2019年6月に藤沢市民を対象とした市民講座で「ゴマ葉の機能性成分と栽培環境」について講演する予定である。
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