我々は、分裂酵母のDNA複製関連因子MCM-BPの機能を出芽酵母細胞を用いて解析を行ってきた。その過程において、低温で高い増殖能を示す出芽酵母株を偶然見い出した。本研究計画の昨年度までの解析により、この偶然得られた低温で高い増殖能を示す出芽酵母株の低温増殖性獲得の原因は、トリプトファン輸送タンパク質Tat2のE27F変異(tat2-E27F)である事を明らかにした。このtat2-E27F変異は既に報告例のある変異であり、ある系統(SEY6210)の実験室出芽酵母に存在する変異でもあった。 それらの事実を踏まえ、今回、tat2-E27F変異が低温での発酵能力に与える影響の検証を行った。トリプトファン非要求性の野生株、トリプトファン非要求性のtat2-E27F変異株、トリプトファン要求性の野生株、およびトリプトファン要求性のtat2-E27F変異株を用いて、15℃と30℃で発酵試験を行いCO2発生量とCO2発生速度を計測した。その結果、トリプトファン非要求性株では野生株に比べtat2-E27F変異株で低温(15℃)での発酵能の上昇が見られた。しかし、そのレベルはトリプトファン要求性株の野生株やtat2-E27F変異株と同程度であるという、矛盾を含んだものであった。今後、より慎重にtat2-E27F変異が低温での発酵能力に与える影響を検証する必要がある。 また、tat2-E27F変異が低温でのTat2輸送体の能力向上にもたらす影響を調べるために、tat2-E27F変異がTat2タンパク質の分解制御に与える影響を解析した。その結果、tat2-E27F変異はTat2タンパク質の分解抑制に働いているとは言いきれない結果が得られた。今後、tat2-E27F変異がTat2タンパク質の機能にどのような影響与えているのか、より詳細に解析する必要がある。
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