研究課題/領域番号 |
18K19191
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
藤原 伸介 関西学院大学, 理工学部, 教授 (90263219)
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研究分担者 |
柳原 格 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪母子医療センター(研究所), 免疫部門, 部長 (60314415)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 分子シャペロニン / アーケア / 酢酸菌 / 安定化 |
研究実績の概要 |
本研究では本来耐熱性を持たないタンパク質に塩基性のタグを付加し、超好熱菌の耐熱性分子シャペロニンと共存させることでタンパク質の選択的捕捉と安定化を目指している。また、タグ付加タンパク質を耐熱性分子シャペロニンとともに酢酸菌細胞内で高発現させ、熱などの変性処理を施したのち、耐熱性分子シャペロニンに特異的に捕捉されたタンパク質を優先的に回収する技術の確立を目指す。この作用機序についても詳細に解析する。2018年度の研究を通じ、これまでS1タグの配列(Gly-Gly-Arg-Arg-Gly-Arg)が最も効果的であることが見出された。今回、タグの数、方向を含め、他の類似配列を検証した。S1タグ単独の場合と顕著な違いは認められず、S1タグの付与で十分な効果が得られることが示された。いくつかのタンパク質をモデル標的にして、安定化と回収効果の検証を行った。安定化はいずれの標的に対してみられ、分子量の小さい標的ほど良好な回収がみられた。次に酢酸菌を宿主にし、耐熱性分子シャペロニンを大腸菌由来のβガラクトシダーゼとともに発現させ、安定化について評価したところ、酢酸菌細胞内で顕著な安定化が見られた。耐熱性分子シャペロニンは塩基性分子(等電点の高い分子)を優先的に捕捉する。酢酸菌の細胞内pHは培養が進むにつれて低下する。このため、酢酸菌のタンパク質は耐熱性分子シャペロニンには捕捉されにくくなるが、βガラクトシダーゼは相対的に等電点が高いため、優先的に捕捉されたものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
酢酸菌内で外来遺伝子の発現に使用しているプロモーターの転写活性が低く、転写活性の高いプロモーターのスクリーニングが必要となった。今回、この実験に時間を要し、進捗が遅れた。タンパク質の評価のために、カラム等の購入を考えていたが、この解析が遂行されなかったため、2019年度に行いたい。また、2018年度に行ったプロモータースクリーニングで酢酸菌のgroESLプロモーターの活性が高く、本実験に相応しいことが示された。本プロモーターは熱ショック誘導型のものだが、実験での利便性を考えると誘導物質で制御できるものが好ましい。今回、酢酸菌の転写動態と代謝特性をもとに利用可能な制御系を予測したところ、aldC遺伝子が乳酸によって誘導されることが期待された。実際に培地に乳酸を添加することでaldCの誘導についてqRT-PCR法で調べたところ、良好な転写誘導が認められた。2019年度ではgroESLプロモーター、aldCオペレーターを融合した制御系を試したい。また、2019年度はウレオプラズマタンパク質を本システムで安定発現できるか検討する。2019年度は細胞の培養量が増え、タンパク質精製関連試薬も増えることから消耗品にかかる経費は増大すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回の知見により、分子シャペロニンの分子認識に静電相互作用が重要であることが示された。超好熱菌には培養温度の上昇に伴い分岐鎖ポリアミンが多く蓄積される。このことから分岐鎖ポリアミンがタンパク質コンプレックスである分子シャペロニンの機能にも関与する可能性が示唆された。今後、この点についても検討を進める予定である。また、酢酸菌での安定性を意識すると好酸性の超好熱菌に由来する分子シャペロニンはより顕著な効果が期待される。そこでSulfolobus acidocaldarius由来の分子シャペロニンの機能を解析し、安定化効果の検証を行う。ウレオプラズマの感染は流産を誘発するが、感染から発症に至る作用機序が不明である。ウレオプラズマは低pHで機能するタンパク質が多く、従来の大腸菌で組換えタンパク質を得ることができない。2019年度はウレオプラズマタンパク質を本システムで安定発現できるか検討する。酢酸菌の宿主ベクター系と耐熱性分子シャペロニンを組み合わせて、大腸菌で不溶性顆粒を形成していたタンパク質について発現を試みる予定である。タグは2018年度の検証で最も効果があったS1タグ(Gly-Gly-Arg-Arg-Gly-Arg)を用いる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の遅延により、2018年度に予定していたタンパク質の精製がなされなかった。この内容については2019年度に遂行する。2019年度には、タンパク質精製用の消耗品(分離用カラム、大量培養用試薬など)を購入するための費用が発生する。
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